5.12 井戸の計画と維持管理


Q225
乾燥した国での井戸による飲料水確保は、どう推移し、その展望はあるのですか





  Key words:井戸、地下水資源、人口の都市集中、衛生環境の確保

1.乾燥した国での井戸による飲料水確保の推移
 乾燥した国々は世界の陸地の3分の1以上に広がっていますから、井戸による飲料水確保の推移も多様です。しかしながら、これらの国々においては給水人口の増加と生活水準の向上により、給水量 と水質の両面において一般的にますます高いレベルの要求が出てきています。
 水量の面でいうと、途上国では年率3%を超える急激な人口増加が続いていることもあって、都市部でも農村部でもさらに多くの水源を確保しなければならなくなっています。そのため従来利用されてきた手掘り井戸による浅い地下水のほかに、機械掘り井戸による深度数百mに及ぶ深い地下水の利用が進められています。国および地域によってはすでに地下水資源に限界がきたため、遠方の表流水をダムなどによって取水し、長距離の大型水路によって需要地に送水することが行われています。このような対策は、国内のみならず国外の水源を対象とする方向にまで進んでいるのが現状といえるでしょう。
 水質の面では、地下水枯渇と並行して、塩分の増加や生活排水および産業排水・廃棄物による汚染の問題が各地で増えています。このような背景もあるため、新たな地下水帯水層を利用せざるをえないというのが実状です。この場合も深度が増大するだけでなく、掘削点も遠くに設定せざるをえないということが起こっています。衛生面 での改善を図るため、管井戸にポンプを付けた密閉型の井戸給水施設も、手動ポンプ付きの小型井戸や動力ポンプ付きの大型揚水井の双方で普及が進みました。
 以上のような水量・水質両面に対する対策は、1970年代初頭と1980年代に主としてアフリカのサヘル地域で深刻化した旱魃の時期に、二国間あるいは非政府組織(NGO)も含む国際機関の援助によって大きく進展しました。わが国も1970年代末からアフリカを中心としたいくつかの乾燥地国家に対する援助を行ってきています。こうした時期に建設された給水施設は、その後老朽化したり維持管理に失敗したりして有効に稼働していないものも多く、現在はこのような事態に各国・各機関がさまざまな取り組みをしているのが実状です。

2.乾燥した国での井戸による飲料水確保の展望
 前段のような推移のもとにあって、乾燥地各国では今後以下のような状況に直面 するとともに、それに対する対策を迫られることが考えられます。
 最近の研究によると、乾燥地の途上国問題で中核的な位置を占めるアフリカのサヘル地域においては、今後25年間に人口はほぼ倍増するだけでなく、人口の都市集中がさらに進むと予測され、国によっては全人口の60%が都市居住者になるといわれています1)。このような傾向はサヘル地域だけでなく、乾燥地域の多くの途上国で進展すると考えられ、将来の人口問題の乾燥地域における一般 的な特徴と考えられています。人口の極端な都市集中はすでにペルシャ湾岸の産油国で起こっており、これらの国々の給水は従来の地下水などによる天然水給水から脱塩海水によるものへとその比重が移っています。
 上記のように、将来の給水人口では単に総人口の増加だけでなく人口分布とその構成人口の質的変化が見込まれ、これまでとは異なる給水対策が求められる時代が迫っています。地方では、給水源としての地下水はおそらく大きな変更なく当分確保可能なことが多いと思われますが、都市人口に関しては、地下水以外の水源を積極的に開発することが必要になることでしょう。総人口の増加も考えると、国全体の水利用の合理化に向けて、多くの国々では農業を基幹とする産業構造の改善すら考えねばならなくなるでしょう。飲料水確保を優先するべく、省水型農業への転換の必要性を説く国際援助機関も出てきました。これまで新たな地下水源の開発は、主として深い地下水を中心に行われてきました。しかし深い地下水のなかには、まだ十分にその起源や涵養機構がわかっていないものがあります。そのような地下水資源の一つである化石地下水もすでに大規模な利用の対象になっています。こうした非循環水に類する地下水を利用する場合は、将来の水源確保のためにも十分な調査を実施し十分な観測体制を確立して、いっそうの節約を図ることが必要です。
 乾燥地の給水源地下水汚染の問題で忘れてはならないのは、取水点や給水点における衛生環境の確保です。これまでのところ、乾燥地であるということから、井戸周辺の余分な水の始末についてあまり配慮がされなかった傾向があります。この余分な水が周辺にぬ かるみやドブをつくり、それが井戸の直接の汚染になってしまった例が多いのです。非衛生な周辺環境は、汚染ばかりではなく風土病や伝染病の発生源になったこともあります。貴重な水源が水揚の衛生設計によって確保できるように今後さらなる努力が必要です。
 水資源が厳しい賦存状況下にある乾燥地においては、水資源の保全と利用効率を高めるためにも地下水資源の監視は重要です。給水施設の建設にあたっては、給水量 の記録、水位や水質の観測などが施設稼働時に確実に行われるように建設計画を策定することが必要でしょう。

【事例プロジェクト名】
セネガル「地方給水計画」(JICA 無償資金協力、1979年以来10次)
ニジェール「ギニアウォーム撲滅対策飲料水供給 計画」(JICA 無償資金協力、1995年)

【出 典】
1)CINERGIE ADB/OECD/CILSS and Club du Sahel―OECD:West African Long Term Perspective Study, Paris, 1995.

【参考文献】
1)The Economist(Dec 23rd 1995〜Jan 5th 1996), 337(7946):p63―65, 1995.

(牛木 久雄)

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