5.12 井戸の計画と維持管理


Q232
上総掘りはどのような水理・地質条件の場合に掘削可能なのですか





  Key words:井戸、上総堀り、改良型上総堀り

1.上総掘りで掘削可能な地層
 上総掘りによる深井戸掘削は、すべて人力のみで行うので、作業者にとっては柔らかい土や粘土層が望ましいようです。しかし、そのような好条件が整った地域は、上総掘り発生の地の上総地方(現在の千葉県君津市)くらいです。このために上総掘りの技術が完成域までに発達し各地に伝承されたのです。上総地方以外、または海外で掘削する場合は、どうしても硬い地層を掘ることになります。このようなレキ層混じりの硬い地層の掘削には、多くの労力と時間を費やさなければなりません。あるデータでは掘削用鉄管で掘れる地層の硬さは、標準貫入試験のN値30くらいといわれています。しかし上総掘りはN値30以上の地層を掘ることが可能です。上総掘りには硬い地層を掘るための工夫がいくつかあります。一つは掘削用鉄管の先端に付けるノミの交換です。一文字ノミという先端に尖った刃の付いたノミに交換することで、砂混じりの硬い粘土層などを打ち砕くようにして掘り進むことができます。また、一見単純そうな掘削の作業も、実は竹ひごから伝わってくる手応えで、目に見えない井戸孔の底の状態を推測・判断し、効率のよい掘り方をするのです。つまり地層に応じて掘り方を使い分けるのです。砂層のような細かく崩れやすい地層には「スクイボリ」という掘削鉄管に吸い込むようにして掘る方法をとります。反対に砂混じりの粘土層のような硬い地層には「タタキボリ」という打ち砕くように掘り進む方法をとります。しかし、レキ層に当たった場合は、掘削用鉄管ではどうにも掘削できないこともあります。そのような場合は重量 が70sもある「砂利突き棒頭(ボウトウ)」を使用してレキ層を打ち抜きます。

2.地層や現地の状況に対応した上総掘り技術の改良
 上総掘り技術を多角的に研究した結果、海外で上総掘りを実施する際は、伝統的な技術形態にとらわれず、現地の状況を考慮し、技術的改良を施した現地対応型の上総掘りを実施することが望ましいという結論に達しました。このような見地に立って実施されたルワンダ難民緊急援助のための改良型上総掘りは、タンザニア北西部のベナコ難民キャンプで大きな成果 を上げました。
 具体的には道具・資材はすべて現地で調達できるように技術改良し、また地球の裂け目ともいうべき大地溝帯という地層的に難しい地域での掘削に対応できるように、レキ層対策のための技術を新たに導入して技術の向上を図りました。試行錯誤の結果 、硬質のレキ層(石英:quartz)を砕き掘り進むことができました。したがって、岩盤以外の地層であればどんな地層でも「改良型上総掘り」で掘削可能となりました。やはり、地層・状況に応じた現地対応型の技術改良が重要といえます。

【事例プロジェクト名】
ルワンダ難民のための井戸掘り〔難民を助ける会(外務省NGO助成、1994年)〕
(大野 厚志)

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