2.5 資金協力


Q36
わが国と他の援助機関が協調して融資する場合の、考え方、留意点について説明してください





  Key words:協調融資、並行融資、共同融資

1.協調融資の考え方
 他援助機関と共同して融資を行うことを協調融資といい、主な利点としては、規模が大きすぎて1援助機関では資金負担が大きすぎる事業に対応できること、他援助機関のもっている豊富な情報やノウハウを活用できることがあげられます。
 わが国にとっては、特に後者の利点が大きく、中近東、アフリカ、中南米諸国のように、単独で案件を発掘・形成し、効果 的に実施監理することが困難な国々においては、先行して協力を進めてきているアフリカ開発銀行(AfDB)、米州開発銀行(IDB)などの地域開発銀行や世界銀行と協調する意義は大きいといえます。また、教育や保健医療分野など、わが国としての取り組み実績の少ないセクターに対する援助を考える場合にも、先行している援助機関との協調融資は、有効な場合があります。
 このようなことから、OECFでは、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)などの主な国際開発金融機関との定期協議を行っており、このような協議の場を通 じて、具体的な国やセクターに対する援助方針の調整を図るとともに、具体的な協調融資候補案件についても個別 の議論がなされています。
 全体的な傾向として、他の援助機関から協調融資のパートナーとして求められる場合が多く、OECFが自ら発掘した案件について、積極的に協調融資を働きかけることは原則としてないといえます。

2.協調融資の形態
 協調融資の形態は、並行融資と共同融資に分けられます。並行融資は、事業スコープ上、事業に参加している各援助機関の融資対象が明確に区分され、それぞれの対象部分に対して別 々に融資が行われる方法です。これに対して共同融資は、融資対象を分けるのではなく、協調融資比率を定めて、同一部分に各援助機関が共同して融資するものです。
 後者は、並行融資以上に援助機関の間での緊密な連携が求められるうえに、日本の顔の見えにくい援助となってしまうことから、OECFとしての協調融資の形態は大部分が並行融資となっています。
 並行融資にも、1つの事業を契約パッケージ単位で分ける場合(たとえば都市水道事業で、導水から浄水場まではA、送配水施設はBというような場合)と、いくつものサブプロジェクトからなる大きな事業で、サブプロジェクト単位 で分ける場合(たとえば都市の上下水道事業で、上水道事業はA、下水道事業はBというような場合)とがあり、前者のほうが援助機関相互のより緊密な連携が求められます。

3.協調融資の留意点
 協調融資には、先に述べたような利点がある反面、複数の援助機関が関係するがために、相互の連携が十分でないと案件の円滑な実施が妨げられる場合もあります。具体的には、次のようなことがあげられます。
 1つの事業を契約パッケージ単位で分けるような並行融資の場合には、どこか1つの援助機関の対象部分が止まってしまうと、事業全体の遅延を引き起こすことになります。たとえば、一般 に世界銀行などの援助機関は、相手国に対して厳しいコンディショナリティを求める傾向にあり(Q27参照)、OECFにとっては問題とならない制度上の条件が満たされないために、世界銀行などの担当する部分が進まないという場合がしばしばみられます。
 したがって、各援助機関の取り組み方針を事前に十分に把握し、調整を図ったうえで、協調融資に参加することが重要ですが、できるだけ各援助機関の対象部分の進捗が、スケジュール上相互に影響を与えにくいような分担、あるいはそれぞれの対象部分単独でも一定の事業効果 を発揮できるような分担をとすることも重要です。
 また、事業に関するコンサルティングサービスをどう考えるかも重要な点です。先に述べたように、通 常、協調融資案件は、他の援助機関からもちかけられる場合が多く、すでに担当コンサルタントが当該援助機関の資金で雇用されている場合も少なくありません。このような場合には、OECF事業分の担当コンサルタントを新たに雇用することには、しばしば相手国からの抵抗があります。
 しかし、OECFでは、協調融資であっても、OECF対象部分のコンサルタントは、円借款のなかで別 途雇用してもらうことを原則としてお願いしています。これは、すでに雇用されているコンサルタントがOECFの手続きに必ずしも精通 しておらず、無用のトラブルや遅延を生じる可能性があることや、事業実施上の問題が生じた際に、OECFと実施機関の間に立って、必ずしも十分な連絡調整を行ってもらえないことなどの理由によるものです。
 協調融資は、複数の援助機関相互の連絡調整を必要とするため、案件監理上は通 常の融資よりも難しいといえます。したがって、このような役割を着実にサポートできるコンサルタントの雇用が重要といえます。

4.水道案件での実績
 最近の水道案件での協調融資の実績をあげると、表1のような案件があります。いずれも世界銀行などの先行している援助機関から協調融資への参加を求められたもので、アフリカと南米に集中しています。
 いずれも並行融資ですが、パラグアイの事業のように、OECFとIDBの対象都市が異なり、相互にほとんど影響を及ぼさない事業もあれば、ボツワナの事業のように1つの導水システムの構成施設を各援助機関が分担するという、どれか1つの施設整備が遅延すると、全体が機能しなくなる事業もあります。
 協調融資事業では、モロッコやパラグアイの例にみるように、単なる施設整備にとどまらず、トレーニングや組織強化を含めたセクター全体の強化をスコープに含むことがよくありますが、きめ細かな監理を必要とするソフト面 は、先行して援助を行っている協調融資先が担当することが一般的で、OECFは主として施設整備を担当することになります。

【参考文献】
1)海外経済協力基金参与会基金業務中期展望検討委員会:基金業務の中期展望,海外経済協力基金,p参考5―6,1996.

(山本 昌宏)

表1

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