2.5 資金協力


Q38
途上国の水道整備に必要な資金は、無償資金協力によってどの程度カバーできるのですか





  Key words:無償資金協力、二国間贈与、案件の発掘・形成

 途上国における水道の整備順位は高いですが(Q22参照)、それならば、低所得国を中心に実施される無償資金協力(二国間贈与)によって、水供給・衛生分野への投資資金はどの程度カバーされるのかを推計してみます。なお国際的には、上水道分野を単独に扱うのではなく、水供給・衛生分野として分類します。

1.途上国での水供給・衛生分野への投資額
 全途上国での水供給・衛生分野への投資額(1996年)は226億ドル(2兆4590億円)と推計されます。これは、援助による投資額ではなく、自己資金も含めた全投資額です。
 開発の初期段階にある途上国には、無償資金協力で社会インフラストラクチャーへの投資を推進する必要がありますが、上記投資額2兆4590億円/年のうち、どこまでを二国間贈与でカバーできるのでしょうか。およその目安を知るために計算すると表1のようになります。

2.二国間贈与によってどの程度カバーされるか

 表1によれば、DAC諸国全体の水供給・衛生分野の援助額は投資額の10.7%、日本単独では1.1%であり、このことから次のことがいえます。
(1)すべての案件の事業費が同じという大胆な仮定をすれば、DAC諸国全体の二国間贈与でカバーできるのは、100案件のうち10.7案件(9案件のうち1案件)である。
(2)日本の二国間贈与でカバーできるのは、100案件のうち1.1案件(91案件のうち1案件)にすぎない。
(3)DAC諸国全体では日本の約10倍の事業を実施している。
 開発の初期段階にある途上国に対する水供給・衛生分野の整備は緊急の課題ですが、このようにDAC諸国が束になって援助しても、二国間贈与のみで水供給・衛生分野の投資をカバーすることは難しいことがわかります。
 さらに、前記の2兆4590億円は実投資額であって、必要投資額はこの5倍程度といわれていることを考えれば、カバーしているのはごく一部にすぎないのです。

3.発掘・形成へのフィードバック
 以上の結果から、案件の発掘・形成に対する、次のような重要な示唆が得られます。
(1)多くの援助機関は、ごく一部の案件しか実施できないからこそ、アピール効果 や費用対効果が大きい案件を探し求めており、案件はたくさんあるように思えるが、逆に優良案件は少ない。
(2)DAC諸国は日本の約10倍のプロジェクトを実施しており、その発掘・形成手法が優れ、かつ足が速いとすれば、優良案件はすでに実施され残っていないことになる。
(3)わが国が無償で実施できる案件は選びぬかれた案件でなければならず、それにふさわしい発掘・形成をすべきである。
(4)投資資金の総額はきわめて限られているので、実施にあたっては、費用対効果 を高め、少ない費用で多くの人に被益するようにしなければならない。
(5)援助国側には、再度、同じ案件に投資できるような余裕はないので、いったん建設した施設は長期間にわたり利用できるよう、被援助国側にしっかりした保守・運営を要求すべきである。

【参考文献】
1)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書),国際協力推進協会,1997.
2)経済協力開発機構編:日本の開発協力政策および計画に関する審査報告書,外務省,1995.
3)世界銀行編:世界開発報告(1994),イースタン・ブックサービス,1994.

(岩堀 春雄)

表1

戻る    次へ

コメント・お問合せ