2.5 資金協力


Q39
わが国の無償資金協力では、浄水場のリハビリテーション案件は、どのような内容なら実施可能ですか





  Key words:無償資金協力、リハビリテーション

 浄水場のリハビリテーション(以下、リハビリ)の必要度は高く、無償資金協力(以下、無償)による浄水場のリハビリ案件は数多く実施されており、内容に特別 な制限はありません。リハビリの技術的なことはQ175以降に譲り、ここでは考え方について記します。

1.魚か魚の取り方か
 援助の考え方として、「魚を与えるか、魚の取り方を教えるか」というたとえがあります。ほとんどの人は正解は後者であると答えますが、水道分野での応用問題として浄水場リハビリではどうすべきかと尋ねられると、多くの人が何気なく前者を選んでしまうのはどうしてでしょうか。この場合の前者とは「壊れていたものを元通 りに直してあげること」です。
 この回答を誤った原因は、なぜ自力でリハビリをしないで、援助でリハビリせざるをえなくなったのか、という理由を突き止めないためです。壊れた設備を直しただけなら、また数年後に同様なリハビリが必要になり、魚を与えることと同じことになってしまいます。

2.間違ったメッセージ
 浄水場のリハビリ案件では、「耐用年数を超えているから壊れてもしかたない」、「スペアパーツの入手が困難であるから修理できなくてもしょうがない」、「辛うじて動いている状態だから更新するのもやむをえない」、というニュアンスの議論がされます。一見すると善意のような議論ですが、よくよく考えてみると、相手国側に間違ったメッセージを伝えているおそれがあります(Q23参照)。
 もし日本で、施設が老朽化あるいは耐用年数になり更新が必要であるにもかかわらず、その資金がないために国外の機関に援助を頼もうと考えるはずがありませんし、資金がないような事態に陥ったら、その水道事業体は非難にさらされるでしょう。日本ではごく自然にそう考える人が、ひとたび途上国への援助となると判断基準が甘くなる傾向があります。日本の水道事業は独立採算制であり、特別 な場合を除いて水道施設の建設や改良事業費に補助金は適用されませんが、途上国への無償資金協力の資金源は、わが国の税金でまかなわれることを考えればなおさらです。
 間違ったメッセージによって相手国が安易になり、プロジェクトの完了引き渡し後において、責任ある運営や保守・管理がされない原因になります。

3.浄水場のリハビリテーションと収入増加
 管路のリハビリでは、その完了によって料金収入が増え、水道事業に目に見える収益を生むことから経営面 で有利です。しかし、浄水場のリハビリでは、設計能力を回復してもリハビリ前と比べて料金収入が増加するわけではなく、むしろ電力や薬品の使用量 が増加し支出が増えることになります。相手国側は、当初は水質改善の効果を認めますが、水質改善は収入増に結びつかないため、しだいに保守・管理費を削減されることが多く、持続性を追求するうえで注意すべきです。

4.どこまで配慮するか
 上記のようにさまざまの問題点がありますが、援助では、どこまで相手国の立場に立って考えられるかが重要です。浄水場のリハビリでは、どう考えることが妥当でしょうか。 
 わが国の無償では必要な案件のごく一部しかカバーできませんので、援助によって同じ浄水場を何度もリハビリしている余裕はありません(Q38参照)。また、浄水場の保守・管理費用は最もカットしやすいことから、浄水場を縮小再生産のパターンに入り込むことのないようにする必要があります(Q23参照)。このようなことから、リハビリにおいては、相手国に対し情緒的に対応するのではなく、以下のような明快な対応が大切です。 (1)相手国に要求すべきことは明確に主張すること
 たとえば、いったん援助で完了した施設は、末永く使用し耐用年数がきたら自力で更新できるように、相手国側が全責任をもって運営し、保守・管理や減価償却に必要な支出をすること。
(2)相手国に対し優しく対応すべきことは最大限に配慮すること
 たとえば、上記の要求を実現するために、基本設計や詳細設計のなかで、保守・管理のしやすさと費用の安さを基本にして施設・設備・機器を設計するとともに、引き渡し時の訓練などはできるだけ十分な内容と期間とすること。

5.保守・管理の組織と費用
 相手国側が、援助で完成した施設を保守・管理する組織を整備し、費用を負担することは当然であり、設計時に保守・管理の組織と費用がどうなるか議論する必要があります。わが国の無償で実施する場合も、保守・管理体制と費用の確認は、基本設計調査での重要項目であり1)、報告書のなかで、組織、予算、要員、技術レベルなどについて記述し、もし問題点があれば、評価と提言の項で課題として指摘することになっています。指摘への対応は次の2通 りになります。
(1)相手国側に課題の解決を提言する。
(2)課題が大きければ実施が困難である。
 課題として指摘する場合は、調査団が一方的に保守・管理体制と費用に対する解決策を作成するのではなく、相手国の担当機関と共同で作成すべきです。それによって、相手国側に課題の所在を認識してもらうとともに、解決手法と解決の責任を負ってもらうことになります。ただし、基本設計調査のなかでできることは提言するまでであり、解決を条件づけることや解決を担保することはできません。

【出 典】
1)国際協力事業団編:無償資金協力調査報告書作成のためのガイドライン,日本国際協力システム,p28,1995.

(岩堀 春雄)

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