2.5 資金協力


Q40
わが国の無償資金協力では、管路のリハビリテーション案件は、どのような内容なら実施可能ですか





  Key words:無償資金協力、リハビリテーション、プログラム方式

 管路のリハビリテーション(以下、リハビリ)案件は浄水場のリハビリ案件に比べて数は少ないですが、必要度は高く、ほとんどの水道施設でリハビリが必要であるといっても過言ではありません。浄水場のリハビリとの違いは、公営の水道事業であれば、浄水場は公有財産でありすべての施設が援助対象になりますが、管路の場合は、給水管、メーターなどのうち、公有財産となる部分は対象になりますが、使用者の私有財産となる部分は対象となりません。実施にあたり配慮すべきことは次のとおりです。

1.リハビリテーションの履歴
 管路は目に見えないことから保守・管理で手抜きされやすい傾向があり、リハビリしてほしいといいながら、保守・管理組織やまともな管路図さえないケースがあります。管路のリハビリでは、援助でリハビリせざるをえなくなった履歴を確認する必要があり、それをせずに壊れた部分を改修しても、また他の地区で同じようなリハビリが必要になり、エンドレスな援助になるおそれがあります。

2.間違ったメッセージ
 日本の水道関係者は、管路の保守・管理は水道事業体の日常業務であり、多くの費用と手間をかけて実施すべきものと考えています。しかし、途上国では、管路の保守・管理のために、しっかりした組織・体制をもっているところは少ないのが実状です。また、途上国では、漏水などを減らしたいという願望はありますが、実行を伴わないことが多く、管路の保守・管理に対する考え方も次の3つに分類されます。
(1)軽く見すぎている
(2)自分たちの手に負えないと思っている
(3)他人事のように考えている
したがって、援助で管路のリハビリをしてほしいという、日本で管路の保守・管理に苦労してきた人が聞けば、虫がよすぎるのではないかと思われる要請が出てきます。これについて何も主張しないのは、相手国側に間違ったメッセージを発していると考えるべきです。日本では保守・管理にどれだけ多くの労力を投入しているかのデータなどを使い(Q211参照)、管路のリハビリは、原則として相手国の水道事業体が日常業務で実施すべきことであることを明確に主張すべきです。援助したために、さらに相手国側の組織・体制を弱めることは好ましくありません。

3.どこまで援助すべきか
 しかし、組織、要員、資金、資料などがない状態では、自分たちでやるべきだといっても始動しないことは明らかです。援助では、どこまで相手国の立場に立って考えられるかが重要なことから、管路のリハビリではどう考えることが妥当でしょうか。答は、始動するための条件を整えるところまで援助で実施することが、Q39に述べた「魚と魚の取り方」から判断しても、エンドレスな援助にしないためにも正解といえます。具体的には以下のようになりますが、これに加えて技術協力が並行して実施されればベストです。
(1)管網解析とそれに必要なレベルの管網図整備
(2)主な送配水施設で不足している部分の特定と敷設
(3)漏水調査用の機材供与
(4)漏水修理用の資材供与

4.管路リハビリテーションの限界
 わが国の無償で管路リハビリを実施するには限界があります。なぜなら、基本設計調査では設計図書づくり、事業費を算出しなくてはならないわけですが、掘ってみなければわからないことに対し、設計図書の作成や事業費を算出することは難しいからです。いきおい、ある地区の給配水管全部を替えてしまうような方法をとるしかなく、材料と費用のむだが生ずるおそれがあります。したがって、あらかじめ開発調査などで、上記3.に示した項目の対象と範囲が特定されていない限り、無償で管路リハビリを実施することは難しいといえます。
 また、漏水防止作業を無償で実施することの適否ですが、漏水調査と漏水修理作業は同時に実施するものであり、無償の実施手法に合いません。上記2.に述べたとおり、漏水防止作業は水道事業体が日常業務として実施すべきことであり、援助で実施するにはなじまないと考えられます。

5.理想的な実施手法
 管路のリハビリは、わが国の無償の実施手法のように短期間に仕上げてしまうのではなく、相手国側の組織と人材が継続的に参加しなければ効果 的な実施は望めません。上記3.に述べた援助内容も、わが国の種々の援助形態を組み合わせなければ実施は難しいでしょう。効果 的な管路のリハビリは、プログラム方式が適しているといえます。ここでいうプログラム方式とは、いろいろな援助形態、たとえば、専門家派遣、訓練コースの開講、リハビリの調査、無償による資機材供与などを組み合わせて、1つのプロジェクトを実施することです。フィンランドの援助機関FINNIDAによる「ハノイ水道整備計画」1)は、この方式によって効果 的に実施されました。
 世界開発報告(1994年)でインフラストラクチャー整備の特集をしており2)、そのなかで、水道事業の民営・民活化について詳しく記しているとおり、民営・民活化の推進によって持続的な事業経営が着実に増えています。民営・民活化への移行のスピードは、日本より途上国のほうがはるかに速いと考えられますので、水道分野の援助に参画する人々の意識も国際的な流れに沿う必要があります。

【出 典】
1)国際協力事業団編:ハノイ市ザーラム地区上水道整備計画事前調査報告書,国際協力事業団,1992.
2)世界銀行編:世界開発報告(1994),イースタン・ブックサービス,1994.

(岩堀 春雄)

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