2.5 資金協力


Q42
無償資金協力の実施において、相手国側が負担すべき範囲で工期の遅延、不履行が生じた場合の対応について説明してください





  Key words:無償資金協力、工期の遅延、国庫債務負担行為

1.なぜ工期の遅延が生じるのか
 相手国側の責任で遅れを生じるにはいろいろな原因、理由があります。たとえば用地を囲むフェンス建設の遅れ、供与機材の通 関の遅れ、予算・人員配置が遅れたため施設の運転・維持管理ができなくなる、契約に従って支払いを行うのに銀行手数料が払えない、機材供与案件の場合に保管場所が準備されていないなどです。なかでも用地取得の遅れは致命的で案件は完全に止まってしまいます。
 初めて日本の無償資金協力を受け入れる国では「無償」案件とは、自己負担がまったくなしですべて日本側が実施してくれるものだという誤解をしている場合もありますので、調査開始の時点から相手国側に無償資金協力の枠組みをよく説明して理解を徹底させ、日本側負担分と受入国負担分の区分(demarkation)を明確にしておく必要があります。受入国負担分を決定するにあたっては相手国側に無理のない範囲を見きわめなければならない困難な作業があるでしょう。

2.わが国の対応
 外務省・JICAは案件の進捗状況をモニターしていて、もし遅れが出そうな場合には日本から実施促進のための調査団を派遣し、遅れの理由をつきとめ、相手国政府に対し速やかに実施するよう要請します。
 遅延の結果、工期が当初予定していた会計年度内に収まらない場合には口上書(note verbal)によって交換公文(E/N)の延長を行います(E/N延長がすむとコンサルタント契約や請負契約の延長を行います)。E/Nはあくまで有効期間が単一会計年度だけですので、もし何らかの理由で支払い(disbursement)ができず、またE/N延長ができなければ受入国側はE/Nで規定された資金を引き出すことはできなくなります。
 遅れの程度が深刻で案件実施が完全に停止して見込みが立たない場合、外務省の判断にもよりますが、日本国政府は当該国に対する無償援助の実施を一時中断し、相手国政府の速やかな処置を喚起することがあります。また、新規案件の採択は慎重に考慮することになるでしょう。
 案件の規模や、受入国の過去の実績、能力などを十分に勘案して基本設計調査の段階で実施可能な計画を立てることが強く望まれます。
 上述のように無償資金協力案件は単一会計年度内に終了しなければなりませんが、過去の実績からみますと無償援助の対象となる国では予算不足や行政制度の不備などからこの条件を満たすことが受入国によっては難しいため、日本政府の現実的な対応策として「国庫債務負担行為」、略して「国債」と呼ばれる制度があります。これは事前に財務当局の承認を得て複数の会計年度にわたって1つの無償資金協力案件を実施するものです。

【事例プロジェクト名】
べトナム「ハノイ市ザーラム地区上水道整備計画」

【参考文献】
1)国際協力事業団無償資金協力調査部編:基本設計調査のためのガイドライン,日本国際協力センター,1994.
2)国際協力事業団無償資金協力業務部編:無償資金協力案件の入札業務ガイドライン:コンサルタント業務実施要領,国際協力事業団,1984.

(大村 良樹)

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