2.6 人材養成と研修員受入れ


Q48
わが国が実施したタイの水道技術訓練センターの概要と特徴を説明してください





  Key words:タイ水道技術訓練センター(NWTTI)、プロジェクト方式技術協力

1.技術協力要請の背景(タイの水道事情)
 現在のタイの水道事業体は大きく3つに分けられます。一つは首都バンコクとその周辺地区に水道を供給している首都圏水道公社 (Metropolitan Waterworks Authority:MWA)、もう一つはバンコク首都圏を除くタイ全域を給水対象とした地方水道公社 (Provincial Waterworks Authority:PWA)です。PWAは地方の人口5000人以上の地方都市を対象にして上水道を供給しており、創立以来これらの都市型水道事業体を順次統合してきています。このほかに人口1500〜5000人の地方型水道事業体に対する技術指導も実施している。3つめはMWAにもPWAにも属さない全部で700近くある水道事業体で、人口5000人以上でもまだPWAに属していない都市型水道事業体、人口1500〜5000人の地方型水道事業体や衛生区、および人口1500人未満の水道事業体からなります。MWA、PWAとも内務省の直轄下に置かれており、両公社とも水道の普及という事業目的に向かって、拡張工事の推進と水道施設の適切な維持管理をめざしていますが、次のような課題を抱えています。
(1)降雨量そのものは決して不十分とはいえないが、貯水・利水施設や貯水・利水計画などの水源管理が適切でないため、慢性的な水不足に見舞われている。
(2)急速な工業化・都市化に伴う地下水の汲み揚げによって、地下水を水源としていた浄水場では、内陸部においても水源の塩水化現象が起こっているとともに、都市部では急激な地盤沈下が起きている。その結果 、水源の河川への依存率が高まっている。
(3)下水道がほとんど普及していないこともあって、工業化・都市化に伴う河川の水質汚濁の進行が著しく、より高度な浄水処理が必要となってきている。
(4)従来、急速な水需要の伸びに追いつこうと水道水の量的確保のみに重点が置かれてきたため、飲料水としての水質管理やきめ細かな水量 管理が不十分であった。今後は、水道水に対する適切な品質管理や省資源、省エネルギーに目を向けた水運用管理が必要である。
(5)多くの浄水場では、沈澱池におけるフロックのキャリーオーバーとろ過池におけるブレークスルーが慢性的にみられる。これは、一部に不適切な設計も見受けられるが、主な原因は浄水場の不適切な維持管理にあると思われる。
(6)水道施設の運転・維持管理方法が遅れており、適切な機器の運転、保守が行われていない。設備の維持管理はほとんど事後保全のみであるため、今後は予防保全もめざす必要がある。
(7)配水管の大部分が石綿管であるため漏水事故が頻発し、漏水率が非常に高い。このため水圧の低い地区では吸い上げポンプによる直接吸引を行うことが多く、水道水の汚染原因ともなっている。今後、石綿管などの老朽管の更新が急がれるとともに、きめ細かな配水コントロールによる配水圧の上昇と均一化が望まれる。
(8)顧客サービスの向上と事務の合理化(職員の削減)に直接つながる営業部門へのコンピューターの導入が遅れている。特に検針、集金業務の迅速・正確で効率よい事務処理が急務となっている。
(9)技術者の絶対数が少ないことに加え、好景気で高給の民間企業に引き抜かれるため、水道界における優秀な技術者の確保が非常に難しい。訓練センターの充実により質の高い技術者の育成がぜひとも必要である。
(10)水道の需要増加が急激なため、拡張工事や水道施設の適切な維持管理などに必要な財源の確保が年々難しくなっている。

2.技術協力の概要
 タイ政府は第5次国家経済社会開発計画(1981〜1986年)で公衆衛生の向上をめざすこととしました。これを受けてMWA、PWAは水道部門の技術向上と人材開発を図るため、JICAの協力を得てタイ水道技術訓練センター(National Waterworks Technology Training Institute:NWTTI)を設立しました。
 NWTTIの設立目的は、水道システムにおける不適切な水道計画、不十分な維持管理、ならびに非効率な経営管理について職員研修を通 して事業体レベルで解決を図っていこうというものでした。日本政府はこのNWTTIに対して無償資金協力とプロジェクト方式技術協力を実施することとしました。
 まず、無償資金協力としてバンコクに中央訓練センター(CTC)を、チェンマイ、コンケンに地方訓練センター(RTC)を建設するとともに付随する必要機材を供与しました。これに要した費用は総額17億9400万円でした。
 また、技術協力としてのプロジェクトは、当初1985年12月1日〜1990年11月30日の5年間でしたが、最終年度の評価調査団によって1年間のフォローアップの必要性が認められ、最終的には1991年11月30日に終了しました。
 専門家からカウンターパートに対する技術移転は、水道計画、経営管理、浄水水質、管路維持、機械電気の5分野で実施されました。主にこのカウンターパートが講師となってそれぞれの訓練センターでタイ側研修生に対して訓練が行われ、延べ受講者数は6年間で1508名に及びました。
 長期専門家は常時6名(ただし、フォローアップ期間中は3〜4名)が、短期専門家は必要に応じて随時派遣されました。6年間の実質人数は長期13名、短期16名(ただし、セミナー講師、調査団などの派遣人数は含まず)でした。
また、カウンターパートの日本研修は毎年5名の予定で行われ、6年間で合計28名が研修に参加しました。
 一方、機材供与は6年間に約1億8400万円、その他の供与額(専門家給与、携行機材、一般 現地業務費などは除く)が5940万円、合計2億4340万円の費用が投入されました。

3.NWTTIプロジェクト・フェーズ2
(1)フェーズ2実施の背景
 NWTTIプロジェクト・フェーズ1においては、バンコク、チェンマイ、コンケンを中心にして水道の基礎技術を移転し、ほぼその目的を達成しました。しかし、以下に述べるような課題も残されました。
 1)フェーズ1では日本の水道技術を中心に移転してきたため、必ずしもタイの自然・社会環境に真に適した技術移転であるとはいえない部分があった。
 2)タイの急速な経済発展に伴って水道が直面している新たな課題である、適切な水源管理、より高度な浄水処理、合理的な水運用管理など、いっそう高度な技術移転が強く求められている。
 3)基礎技術の修得をほぼ完了したタイ側にとって、高度技術や適正技術の移転をいっそう効果 的に実施するためには、単なる研修や訓練による技術移転だけにとどまらず、日本側とタイ側とが一体となった研究開発が必要である。
 4)フェーズ1当時に技術移転が手薄であった南部地区(ソンクラ)にRTCを設置し、タイ国内における水道技術の地域格差是正を図る必要がある。
 5)以上の技術移転を通してNWTTIの地位をよりいっそう高めるとともに、タイの水道全体の水準をレベルアップする必要がある。
(2)フェーズ2の概要
 フェーズ2は上記課題解決のため、平成6(1994)年9月1日〜平成11(1999)年8月31日の5年間の予定で現在実施中です。その内容は教育訓練、研究開発および情報収集の3つであり、具体的には次のとおりです。
 1)教育訓練:水資源管理、高度化浄水処理、水運用制御、無収水量管理、営業事務の5コースをバンコクCTCとチェンマイ、コンケンおよびソンクラ(建物はタイ側で用意する)の各RTCで開催する。なお、研修受講者数は5年間で合計1000名程度を予定している。
 2)研究開発:水源開発管理手法ならびに解析、最適浄水処理、科学的漏水防止、顧客データ処理の4分野で、主としてCTCを中心に調査研究を実施する。
 3)情報収集:セミナーの開催とインドネシア水道環境衛生訓練センターとの技術交換を定期的に実施する。
 以上の技術移転を実施するため、長期専門家がプロジェクトリーダーおよび調整員を含めて常時6名、短期専門家が年間10名前後の予定で派遣されたとともに、必要な機材を5年間で約3億円程度供与する予定です。また、カウンターパートの日本研修も年間3〜5名程度実施する予定です。

【事例プロジェクト名】
タイ「水道技術訓練センター計画」

【参考文献】
1)芳賀秀壽,他:タイ国水道技術訓練センタープロジェクトの技術協力.水道協会雑誌 704,1993.
2)山崎章三:タイ国における技術協力の歩み.水道協会雑誌 714,1994.

(山崎 章三)

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