2.6 人材養成と研修員受入れ


Q49
わが国が実施した、インドネシアの水道環境衛生訓練センターの概要と特徴、タイのセンターとの違いなどを説明してください





  Key words:インドネシア水道環境衛生訓練センター(WSESTC)、プロジェクト方式技術協力

1.技術協力要請の背景(インドネシアの水道事情)
 インドネシアの水道事業は大きく3つに分けられます。まず、水道の計画から建設については、日本の厚生省にあたる公共事業省人間居住総局(CIPTA KARYA Directorate General of Human Settlements)が担当しています。ここで建設された水道施設をBPAM(暫定的水道公社)が5年間運転管理を行ったのち、自治体の水道事業体であるPDAM(地方水道公社)に運営が移管される仕組みになっています。
 インドネシアにおける水道整備は、植民地時代に宗主国のオランダによって始められました。1945年の独立後、なかでも国家開発5カ年計画が策定されるようになった1964年度以降は、政府が水道整備を重要課題の一つとして取り組んできていますが、その水準は依然として低いものです。全国における水道普及率は、公共のパイプ給水によるものに限定すれば1993年度(第5次5カ年計画の最終年度)末で30%弱にしかなりません。また、飲料可能な水道水はほとんどないといってよく、水質面 でも多くの課題を背負っています。とにかく国土が広く人口も多いので、飲料可能な水道の普及率を100%近くにまで高めるためには、まだ長い年月と多額の投資および技術協力を必要としています。今後とも拡張工事の推進と水道施設の適切な維持管理をめざしていますが、現在も次のような課題を抱えています。
(1)河川表流水を原水としている浄水場では、河川水の汚れが原因で水処理上の障害や浄水水質に関する問題が発生している。今後の下水道の早急な整備が望まれる。
(2)配水管には石綿管や塩化ビニル管が主に使用されているため、漏水が非常に多い。また、メカニカル継手方式の鋳鉄管も施工されているが、配管工の技術レベルが低いため、接合不良により新設管ですら漏水するケースも見受けられる。今後は管の更新とともに、施工技術レベルの向上が望まれる。
(3)水道施設の運転、維持管理方法が遅れており、機器の適切な運転、保守が行われていない。設備の維持管理はほとんどが事後保全のみであるため、今後は予防保全をめざす必要がある。
(4)多くの浄水場では、沈澱池におけるフロックのキャリーオーバーとろ過池におけるブレークスルーが慢性的にみられる。これは、一部に不適切な設計も見受けられるが、主な原因は浄水場の不適切な維持管理にあると思われる。
(5)浄水場レベルではほぼ水質基準を満たした水がつくられていることが多いが、使用者に届く水が安全に飲めるとはいいがたい。その理由は、配水管路の老朽化、漏水、水圧の不均衡などによる汚損、浄水場における不適切な塩素注入などの問題が考えられる。今後は送配水システムの総合的水運用と施設整備がぜひとも必要である。


2.技術協力の概要
 このようにインドネシアの衛生水準は依然として低いレベルにあるため、これを改善するためには、水道・環境衛生分野における有能な人材の育成が緊急の課題です。このため、インドネシア公共事業省では、中央訓練センター(CTC)1カ所と地方訓練センター(RTC)数カ所を新たに整備する構想を立て、その一部について日本政府に協力を要請しました。
 この要請を受けて日本政府は、1988年度のJICA無償資金協力事業として水道環境衛生訓練センター(Water Supply and Environmental Sanitation Training Center:WSESTC)をジャカルタ近郊のブカシに建設することを決定しました。施設は1989年度に建設に着手し、1990年3月に完成しました。日本側が負担した総工事費は、訓練に必要な設備・機材の供与を含んで11.14億円でした。
 これに引き続き、本施設を有効に活用して当該分野の人材育成を行うために必要な知識、技術の移転を目的として、プロジェクト方式技術協力が検討されました。その結果 、1991年4月1日〜1996年3月31日の5年間にわたる技術協力が開始されました。なお、本技術協力は最終年度の評価調査団によって1年半のフォローアップの必要性が認められ、1997年9月30日に終了しました。
 技術協力のための長期専門家は常時8名が、短期専門家は必要に応じて随時派遣されました。5年間の実質人数は長期21名、短期33名(ただし、セミナー講師、調査団などの派遣人数は含まず)でした。
また、カウンターパートの日本研修は毎年5名の予定で行われ、5年間で合計23名が研修に参加しました。
 一方、機材供与は5年間に約2億4600万円(携行機材を含む)、現地業務費などは7260万円、合計3億1860万円の費用が投入されました。
 専門家からカウンターパートに対する技術移転は、水道経営・計画・設計、浄水・水質、管路敷設・維持管理、電気・機械設備および生活系廃棄物処理の5分野で実施されました。主にこのカウンターパートが講師となってそれぞれの訓練センターでインドネシア側研修生に対して訓練が行われ、延べ受講者数は5年間で1079名でした。

3.NWTTIとWSESTCとの違い
 NWTTIもWSESTCも厚生省が日本側の所管省となってプロジェクト方式技術協力が実施されており、その訓練センターは、どちらもJICAの無償資金協力により施設が建設されました(注:NWTTIのソンクラRTCおよびWSESTCのRTCは、それぞれタイおよびインドネシア側資金で施設が建設されている)。
 一方、両組織には次のような違いがあります。
(1)NWTTIは上水道技術のみの訓練センターであるが、WSESTCは上水道と環境衛生(固形廃棄物処理およびし尿・生活排水処理)技術を対象とする訓練センターである。
(2)NWTTIはタイの公営水道事業体であるMWAとPWAが協同で設立した組織であるが、WSESTCはインドネシア公共事業省が設立した政府直轄組織である。したがって、前者のカウンターパートと訓練生はともに主として水道事業体の職員であるが、後者については、カウンターパートが国家公務員、訓練生は主として水道事業体や地方自治体の職員である。
(3)NWTTIではバンコクのCTCとチェンマイ、コンケン、ソンクラの3カ所にあるRTCにカウンターパートが常駐しており(専門家はCTCに常駐)、それぞれの場所で専門家とカウンターパートが一体となって技術移転を実施している。一方、WSESTCでは専門家もカウンターパートもジャカルタ近郊のブカシにある訓練センターだけに常駐しており、技術移転も主としてブカシのみで実施している。なお、WSESTCにもRTCがあるが、ここではインドネシア側が独自の訓練を実施している。
【事例プロジェクト名】
タイ「水道技術訓練センター計画」
インドネシア「水道環境衛生訓練センター計画」

【参考文献】
1)山崎章三:タイ国における技術協力の歩み.水道協会雑誌 714,1994.
2)国包章一:インドネシアにおける技術協力のあゆみ.水道協会雑誌 714,1994.
3)国際協力事業団社会開発協力部:インドネシア水道環境衛生訓練センター終了時評価報告書,国際協力事業団,1995.

(山崎 章三)

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