2.6 人材養成と研修員受入れ


Q53
無償資金協力で建設した水道施設を維持管理していくための、相手国側の職員研修のあり方を示してください





  Key words:水道施設の維持管理、途上国における職員研修

1.途上国における水道施設の適切な維持管理
 途上国の水道事業における課題は、健全な水道事業の運営を将来にわたって継続して実施できるかどうかにあります。健全な水道事業の運営とは、水道施設を適切に維持管理することはもちろん、新たな需要に応える設備投資が可能となる健全な財政計画をもつことです。その前提となるのが飲用可能な清浄な水道の供給と独立採算性の原則に基づく事業経営です。
 途上国の水道関係者がしばしば陥りやすい誤解は、水道は人間にとっての基礎生活分野(basic human needs:BHN)であるので、技術的には水道の普及がまず第一で、すなわち質より量 を確保することが重要であり、また、財政的には水道事業の投資は先進国からの援助によってまかない、経営面 では政府の補助を受けて、できるだけ料金を低くするとともに貧しい住民に対しては無料にすべきであると考えることです。しかし、この考え方は、以下の理由から間違いであるといっても過言ではありません。
 まず、飲料可能でなくともよいと考えた場合、どうせ住民は水を飲まないのだから汚染した水を供給したり事故で断水しても住民はそれほど困らないだろうと考え、浄水場や管路の維持管理がいい加減になります。その結果 、水質管理のみならず施設の運転・保守管理、経営に対する姿勢や責任感に重大な影響を及ぼします。また、水道事業体の収入が利用者負担であれば、事業者は施設の維持管理や新たな需要に対する設備投資を適切に行い、消費者のニーズに応えるられるようサービスレベルを向上させる努力をします。このように飲料可能な水道の供給と独立採算制による水道事業の経営は車の両輪となるべきであり、先進国に限らず途上国においても、どちらが欠けても結果 として水道施設の適切な維持管理はできなくなります。

2.途上国における職員研修のあり方
 途上国における職員研修は前述した2つの課題を前提として、以下に示す項目が整備されていることが望ましいでしょう。しかし、現実にはこれらの項目すべてが整っている途上国はないため、専門家などがあらゆる機会をとらえてこれらの項目の実現を相手国関係者に働きかけることが大切です。
(1)研修予算が確保できること。
(2)研修体制(組織)が整っていること。
(3)研修施設が整備されていること。
(4)研修教材が整備されていること。
(5)優れた講師が確保できること。
(6)優れた講師を養成できること。
(7)技術研修だけではなく、経営管理・営業管理といった事務分野の研修も実施すること。
(8)水道事業体の幹部が職員研修の重要性を認識すること。
(9)研修生(研修員)を送り出す職場の理解が得られること。
(10)研修生が職場に戻ったときに研修で得られた技術を個人だけにとどめずに周りの職員にも伝達すること(on the job training)。
(11)研修の義務化、または研修修了生に対する資格の付与など、動機づけのための体制が整備されていること。
(12)カウンターパートが研修所のスタッフ(講師)として長期にわたって拘束される場合には、ラインに戻った場合に人事上の処遇が考慮される体制が整備されていること。
 以上、一般的職員研修のあり方について述べてきましたが、途上国における施設の維持管理に関する研修では、次のことが重要となります。
 一般に、有償および無償資金協力により建設される途上国の水道施設においては、運転管理方式はその国の実状によって多少異なるものの、施設や設備などのハードは先進国の技術が導入される例が多くみられます。また、引き継いだ水道施設を維持管理する場合、運転管理が当面 の業務となり、保守管理については費用や技術力の不足から十分な管理が実施されず、結果 的に不経済・非効率な水道経営となっていることが多いようです。
 これを解決するためには、水道施設の建設工事の段階からコンサルタントやコントラクターによって、運転操作方法はもちろんのこと、具体的な保守管理方法についても言及したトータルな維持管理マニュアルを整備し、これを研修教材として活用するなどのシステムづくりが重要です。

【事例プロジェクト名】
タイ「水道技術訓練センター計画」
インドネシア「水道環境衛生訓練センター計画」

【参考文献】
1)岩堀春雄:開発途上国の水道事情.水道協会雑誌 723,1994.

(山崎 章三)

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