2.9 援助の評価


Q65
公表されている評価報告書から、水道分野の援助で配慮すべきことを説明してください





  Key words:プロジェクト方式技術協力、終了時評価

1.プロジェクト方式技術協力の評価例
 プロジェクト方式技術協力は比較的評価活動が定着している形態です。水道分野におけるこの援助方式は「タイ水道技術訓練センター」と「インドネシア水道環境衛生訓練センター」の2事業があり、両方とも終了時評価を受けています。
(1)プロジェクトの概要(タイ水道技術訓練センターの例)
 大都市の肥大化に伴い深刻な水道施設不足に悩むタイの状況を打開するために、水道施設の拡張と施設運営・保守・管理などに必要な人材の育成を目的とした「プロジェクト方式技術協力」です。水道技術訓練センターの施設建設、機材供与と人材育成のハード、ソフト両面 の協力です。期間は5年間で1年のフォローアップ期間がつけ加えられました。活動は訓練センターに水道計画、経営管理、浄水・水質、管路維持、機械・電気設備などの研修コースを開き、全国から中堅水道技術者、水道のマネージャーを集め、講義および実習をし、彼らのレベルアップを図りました。 技術移転方法としては長・短期専門家派遣、機材供与、カウンターパートの日本での研修によって、コース運営、教材開発、カウンターパートが講師として自立するための技術指導を日本側が行いました。
(2)終了時評価
 JICAはプロジェクト終了半年前に評価ミッションを送り、評価活動を行いました。評価方法は各コース別 に技術移転の成果を調査検討し、一部のフォローアップを決定しました。評価結果 は次のとおりです。
 1)自国語の教材開発は順調。
 2)専門家がコース準備、運営・評価に時間をとられ、講師への技術移転が不十分。
 3)カウンターパート(講師)に能力差があり、一部講師の自立が立ち遅れた。
(3)評価結果から水道分野のプロジェクトで配慮されなければならないこと
 1)計画段階
 相手国のニーズと実情を十分に調査したうえで計画を作成する必要がある(受益者の経済状況、環境、文化など)。
 2)実施段階
 優秀なカウンターパートの配置、研修員が日本から帰国後、研修成果発表の場を設けて、二次的技術移転の考慮。機材の保守管理体制の確立。
 3)終了後
 適切なフォローアップの実施。  

2.無償資金協力、有償資金協力、小規模無償資金協力などの評価例
 上記の水道関連プロジェクトについては、さまざまな種類の事後評価結果をもとに「援助で配慮すべきこと」を拾い出しました。
(1)プロジェクト形成に関すること
 同じ日本のプロジェクトにもかかわらず、プロジェクト間の連携が悪く、相互効果 を出す方向になってない。セクター全般を見通した援助を考えるべき。
(2)計画実施に関すること
 地域特性を十分に生かし、適正技術の導入を図ることがプロジェクトの成功につながる。導入技術を使いこなせる人材がいるか、または新技術を積極的に学ぼうとする意志をもつ人材がいるかなどの見きわめも重要。生活水準を十分調査し、住民が給水栓を付ける費用を出せるのか、水道料金を支払えるのかを判断し、計画を立てる必要がある。
(3)地方給水プロジェクトに関すること
 地域社会の参加が重要。計画段階から実施段階での労力提供、建設後の維持管理とすべての局面 に住民を参加させ、施設への理解と責任をもたせる必要がある。また、水道プロジェクトの波及効果 は学校の衛生教育、野菜栽培による資金稼ぎなどに表れている。地方には人材が不足しており、メンテナンスの容易な施設が成功の鍵となります。小さな水道プロジェクトでも子供の健康改善、女性の労働改善の効果 が大きく表れている。
(4)維持管理に関すること
 料金体系が健全な水道経営を行うに見合ったものになっていないこと、料金回収率が悪いことなどで施設維持管理費用が十分でなく、支障をきたしている場合が多いので、プロジェクトのなかでこの問題について同時に考えていく必要がある。
(5)他プロジェクトの関連
 JICA 研修員 OB の積極的活用がプロジェクトをスムーズに進め、成功につながる場合が多くみられる。

【事例プロジェクト名】
1)特定テーマ評価:上下水道、セクター(インドネシア)
2)合同評価(スウェーデン):ザンビア「地方地下水開発計画」(無償、1986〜1987年)
3)インド・スリランカにおける経済協力評価:キャンディ上水道改善計画(無償、1989〜1990年)
4)在外公館評価
 ・タイ「干ばつ地域緊急井戸掘削計画」(無償、1988年)
 ・インド「飲料水井戸掘削プロジェクト」(草の根無償、1993年)
 ・ネパール「テラー地下水開発計画」(無償)
 ・イエメン「地方水道整備計画」(無償、開調)
 ・ネパール「地方都市上水道整備計画」(無償、1988年)
 ・中国「准安市飲料水改善計画」(小規模無償、1991年)

【参考文献】
1)技術移転手法に関する調査研究「タイ国水道技術訓練センター」,国際協力事業団国際協力総合研修所,1992.
2)経済協力評価報告書(1994),外務省経済協力局,1994.
3)経済協力評価報告書(1995),外務省経済協力局,1995.

(山本 敬子)

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