3.2 水道とサニテーション


Q73
わが国の技術者が、途上国のサニテーション整備について間違いやすい点は何ですか





  Key words:サニテーション、処理水・汚泥の最終処分、雨水排除、廃棄物処理、公衆衛生知識の普及・啓蒙

 一言にサニテーションといっても、Q70で述べたようにし尿処理だけにとらわれて調査・計画を進めると、対象地域の全体的な衛生環境改善に結びつかない内容となる場合があります。雨水排除や廃棄物処理などもサニテーションを考えるうえで必要不可欠な構成要素として浮き上がってくる場合があります。以下にサニテーションの事業化に向けて調査・計画を進めるうえで留意すべき事項を概略示します。

1.適正技術の選択
 Q72でも回答したように、適正技術の選択があげられます。たとえ日本の先進技術が処理効果 などの性能面で優れていても、施行、維持管理、補修部品の調達などにおいて途上国の実情に合致しないものであればsustainableな適正技術とはいえません。逆にいえば、対象国で容易に入手できる資機材を活用可能な施設設計がなされる必要があります。たとえば、ASEAN諸国のように雨期と乾期における気象条件が如実に異なる地域や、アフリカのような乾燥地帯ではおのずと適用可能な処理法式が決まってきます。前者においては、雨期に地下水が上昇する場合、地下浸透方式の処理施設では処理水が浸透しきれなくなることがあります。後者では、し尿の「し」と「尿」を分離することにより、前者を乾燥による肥料化、後者を蒸発による処理とする方式などが実践されています。


2.処理水・汚泥の最終処分と二次汚染防止
 し尿処理をいかなる方法によって実施しようとも、処理施設から発生する処理水と汚泥の最終処分を忘れることはできません。浸透式腐敗槽を設置する場合には、処理水が地下浸透しますので、土質条件によっては、近傍に設置されている浅井戸を汚染する可能性があるので、腐敗槽と浅井戸との位 置関係が大きな問題となります。汚泥の最終処分をどのようにするのかも、えてして忘れられがちな問題です。設置後数年は腐敗槽に貯留できるでしょうが、遠からず汚泥を排除しないと、所要の処理機能を維持できなくなります。また、汚泥の最終処分場における二次環境汚染の防止も重要な検討課題です。

3.雨水排除との連携
 生活環境衛生の改善は、何もし尿や雑排水の処理にとどまりません。住宅地の側溝整備による雨水排除が重要な課題となることがあります。雨水の排除が適切に行われないと、雨が降るたびに浸水や帯水が生じ、蝿や蚊などの有害昆虫が発生したり、悪臭を放ったりして、非衛生的な生活環境となります。浄化槽の処理水を側溝などに排出する場合には、なおさら衛生的な側溝整備が重要となります。

4.廃棄物の収集、処理、処分との連携
 廃棄物の収集、処理、処分が衛生環境整備の重要な要素となる場合があります。環境容量 が比較的大きな地方農村部では、家庭廃棄物は周辺の空き地などに埋め立て処分することが可能ですが、都市部のスラム化した地域などでは、廃棄物対策もサニテーションの一端として取り込まないと、事業効果 は乏しいものになると考えられます。

5.住民に対する公衆衛生知識の普及・啓蒙などの意識改革
 どのような事業にも共通していえることですが、サニテーションのように、住民が直接的な受益者であり、住民の積極的参加が果 たされないと、事業の推進はおろか長期的は事業効果の発現を期待することは難しくなります。このため、さまざまな援助機関がparticipatory approachとかcommunity participationなどと称する住民の参加意欲を盛り立てるソフト面 での工夫を凝らしています。わが国のODAでともすれば忘れられがちなのが、こうした受益者を巻き込んだ事業計画の立案と実施ではないかといわれてきており、昨今ではJICAの開発調査などでこれらの課題が取り上げられるようになってきています。

(辻 良)

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