3.3 水道とWID


Q74
わが国におけるWID(women in development:開発と女性)配慮の経緯および現状課題について説明してください





  Key words:WID、国際婦人年、WID政策宣言、GAD

1.WID概念の形成
 WID(women in development:開発と女性)とは途上国の開発において女性への配慮と積極的活用を進めるという概念ですが、この考え方は1975年の国連の国際婦人年にメキシコで開かれた女性の地位 向上のための世界女性会議のなかで最初に表れました。開発が男女平等の主要な手段であることを明確にしたのです。他方、国連の開発援助活動のなかでは、農村開発、食糧増産、人口爆発、衛生状態の改善などに女性の役割が不可欠であることが認識されてきていました。しかしながら長い間、女性は開発計画やプログラムからはずされてきており、そのためにプロジェクトそのものが失敗したり、いっそう女性を苦しめる結果 になったプロジェクトも多く現れました。この経験をもとに、あらゆるプロジェクトを行う場合、女性の現状を十分認識するとともに積極的に参加させる方法がとられるようになってきたのです。以上のように女性の地位 向上と開発協力の動きが統合されて、WIDという概念が国際社会のなかでできあがりました。

2.DACの動き
 経済開発協力機構(OECD)のDAC(開発援助委員会)では、1975年の国際婦人年を契機に開発と女性に関する専門家会議を開き、さらに連続的な会合のなかで、開発援助において政策決定者、生産者、受益者としての女性の役割向上を図ることは、援助国・途上国の双方において有意義であるという認識を確立していきました。
 1983年にDACは「援助を実施する際に、途上国の女性の役割をいかに組み込むべきか」という「WID指導原則」を採択し、加盟国にWID推進を呼びかけ、以後WIDの活動が国際社会のなかで活発化していきました。

3.わが国におけるWID配慮の経緯
 このような世界の動きのなかで、日本でWID配慮の取り組みを積極的に行うようになったのは1990年になってからです。まず、1990年にJICAにWID研究会が発足し、1991年2月、研究会報告書が提出され、日本におけるWIDの基本方針・重要課題などの提言を行いました。
 これを受けて1991年5月、政府婦人問題企画推進本部は「WID政策宣言」(新国内行動計画第1次改定)を策定しWIDを推進するという姿勢を内外に表明しました。また、JICAに「環境・WID等事業推進室(現:環境・女性課)」を設置し、具体的なプロジェクトへの展開を始めました。

4.開発途上国の女性の現状
 途上国の人口の半数を占める女性の置かれている状況は非常に厳しいものです。昔からの風習のなかで人権がまったく与えられていない場合が多くみられます。経済面 では、世界中で労働に費やす総時間の2/3は女性によるものですが、女性の得る収入は全世界の1/10、資産の所有は1%足らずです。この原因は、女性が生産手段を持たず、意思決定機関に参画できないことによります。また、教育の面 においても非識字人口の60%は女性です。健康の面でも妊産婦の不衛生や栄養不足、働きすぎ、多産による母体への悪影響が女性の健康をむしばみ、これは女性のみならず子供の健康にも直接影響を与えています。

5.WIDの基本的な考え
 WIDの基本的な考えは、女性を開発の受益者としてだけとらえるのではなく、積極的に開発を進める担い手として認識することです。それは現実的に女性は経済・教育・健康など多方面 に中心的にかかわっており、女性が積極的に開発を担うことが開発を進めるうえで不可欠だという経験に基づいています。具体的には開発プロジェクトの企画・立案、実施、評価などのあらゆる段階に女性が参加できることであり、開発途上国との協議において、受益者としての女性の意見が十分聴取・配慮されることです。
 WID関連プロジェクトは女性を主たる対象としたプロジェクト「WID specific」とプロジェクト一般 に女性の視点を組み入れた「WID integrated」の2種類に大別されます。WIDプロジェクトというと「WID specific」のみと考えられがちですが、WIDが最終的にめざしていることは「WID integrated」プロジェクトであるといえます。

6.日本のWID方針と今後の課題
 国際社会のなかではWIDの取り組みが遅れた日本ですが、1991年以降、積極的にWID活動を展開しています。たとえば、女性を対象とした研修コースの設置、母子保健、家族計画、看護教育などのプロジェクト方式技術協力の実施、農村飲料水供給、保健医療機材の供給などの無償資金協力、女性の自立を高めるための縫製教育プログラム、母子栄養改善計画などの小規模無償資金協力の実施などです。しかしながら一般 的なプロジェクトにWIDの視点を組み入れるという考え方はまだまだ浸透しているとはいえません。「WID政策宣言」で示された具体的施策と今後取り組まなければならない課題を次に述べます。
(1)わが国の方針
 1)地域社会における女性の実態把握および横断的取り組みの必要性(女性への多面 的アプローチ)。
 2)経済参加、教育、保健、医療、環境保全を重点分野とする。
 3)援助実施体制の整備(人材の養成、WIDユニットの確保、援助要員の拡充)。
 4)ガイドラインやチェックリストの整備。
 5)広報活動・開発教育の促進(国民の幅広い理解と支援を得る。WIDの重要性の啓蒙)。
(2)今後の課題
 援助スタッフ(JICA職員や専門家)がWIDの考えを十分に認識すること。援助スタッフが、性の差異が意味するところについてまだ十分に認識していない場合が多くみられます。援助担当者自身からWID概念の認識をしていくことが重要です。そのためにはさまざまな研修機会を設けるとともに、対象とする地域、社会における女性の現状を十分把握し、女性の制約、開発からの影響などについて注意深く検討し、援助を進める必要があります。

7.GAD(gender and development:ジェンダーと開発)
 近年、ジェンダー配慮とかGADという言葉がWIDに代わって使われています。ジェンダーは社会的性差とも呼ばれ、男性、女性それぞれの役割や責任を表す概念です。開発における女性の位 置づけを考えるときに、女性のみでなく男女それぞれを考慮に入れ、より幅広い枠組みで開発と女性の問題をとらえようという動きです。

【参考文献】
1)外務省経済協力局編:我が国の政府開発援助(ODA白書 上巻),国際協力推進協会,1993.
2)分野別(開発と女性)援助研究会報告書,国際協力事業団,1991.

(山本 敬子)

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