3.4 住民参加型の援助


Q77
水道とサニテーション整備における住民参加の基本的な考え方について説明してください





  Key words:住民参加、コミュニティ、自助プロジェクト

1.「住民参加とは」
 1998年に「国連飲料水供給と衛生の10カ年計画」が開始されるころ、水道分野の援助において住民参加などのいわゆるソフトウェアの考え方が重要視されるようになってきました。この考え方は参考文献1)に詳しく述べられていますので、以下その本の考え方に沿って話を進めていきたいと思います。まずそのなかで、「住民参加」には以下のような条件が必要だとされています。
 (1)プロジェクトで何をどのように行うかについて、プロジェクトの影響を受けると思われるすべての人を意思決定に関与させること。
 (2)決定された事項を実施する際に積極的に手助けをする。
 (3)事業の利益を分かち合う。
 すなわち住民が意思決定に関与せず、単に物理的な建設作業などに住民を駆り出すというだけでは住民参加とはいえません。コミュニティの外部から来た援助機関などがすべてを取り仕切っているのでは、いくら住民が「自助努力」による労働を提供しているとしても住民参加型とはいえないのです。考え、計画し、決定し、実施し、評価するという一連の過程に住民が参加することが必要なのです。

2.住民参加の程度
 住民参加を考える場合には、住民のなかの少数の「個人」が参加している場合と、「コミュニティ」として組織されて動いている場合とを区別 する必要があります。「住民参加」は、結びつきの強弱はあっても何らかのかたちで組織された住民が関与するものです。また地元の人がすべてをコントロールすることが真の住民参加だというのも誤解です。このようなことはきわめて特殊な条件下のみで可能になることで、通 常は公共団体などとの協力関係が必要になります。住民参加の程度を段階を追って並べると、以下のとおりです。
(1)打ち合わせが行われる
 決まりきった手法で援助を行うのではなく、コミュニティの事情に合わせたプロジェクトを実施するためには、住民と打ち合わせる必要があります。コミュニティの代表者のみと打ち合わせるときには、事前に重要事項についてコミュニティの意見がまとまっていることが重要です。一方、意思決定に意見が反映されにくいグループ(女性、少数民族、貧困層など)の意見も聞くためにそれぞれと打ち合わせることは理想ですが、なかなか難しいのが現状です。
(2)コミュニティ内での資金集めが行われる
 プロジェクト実施時または実施前に、建設費などにあてるために住民の手でコミュニティ内での資金集めが行われます。
(3)受益者グループによる自助プロジェクトが行われる
 住民から援助機関などに労働力などが提供されるようになります。手伝ってくれた人には施設の完成後には使用料金の減免などの優遇措置がとられることがあります。
(4)コミュニティ全体による自助プロジェクトが行われる
 各家庭が援助機関のプロジェクトを労働奉仕のかたちで助けます。住民が単に労働力や金銭を提供したりするだけならば住民参加の程度はまだ高いとはいえません。
(5)住民のなかに専門知識をもつ人ができる
 住民のなかから少数を選び訓練した後、保健婦や給水システムの運転などの特定の任務を与えるようにします。その際、訓練や技術指導は援助機関が行いますが、コミュニティが彼らに何らかの権限をもたせるようなかたちにします。
(6)多数の住民で行動を起こす
 援助機関の力をあまり借りないでも住民が集団的に動くことができるようになります。このようなことは住民が雨水排水路の建設を行うような環境改善プロジェクトの際によく行われます。
(7)住民全体が習慣を変える
 コミュニティ全体が今まで行ってきた習慣を変えることを決め、それを実施するための社会的圧力をかけます。たとえば今まで放し飼いにされていた家畜を小屋に入れるようにしたり、便所を使うこと、結婚式や葬式に金を使いすぎないようにすることがこれにあたります。また住民が積極的に参加するというのも習慣を変えることの一つです。
(8)住民が自発的に開発を行うようになる
 生活環境を変えるための新しいアイディアや運動を、外部から言われて行うのではなく住民が自発的に推進することがこれにあたります。もちろん住民が援助機関にこのアイディアの実施を援助してくれるよう依頼することはありえますが、それが強すぎると「住民参加」ではなく「圧力団体」になってしまいます。
(9)コミュニティによる自治的なプロジェクトが行われる
 プロジェクトの実施時に外部から専門家を呼ぶ必要が生じた場合にもコミュニティ内部で資金を調達できるようになれば住民が主体性をもてます。
(10)自己完結的になる
 できる限り現地で調達可能な資材と人材のみを用いて必要なサービスを行うことができ、外部から物を買ったり技術者に来てもらわなくてもすむようになればプロジェクトが自己完結的になります。

【参考文献】
1)IRC International Reference Centre:Technical Paper Series 17:Community Participation in Water and Sanitation:Concepts, Strategies and Methods, Hague, 1981.

(北脇 秀敏)

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