3.4 住民参加型の援助


Q79
水道整備と経済発展との関連およびインフラストラクチャーのなかにおける水道の整備順位 について説明してください





  Key words:インフラストラクチャー整備、GDP、円借款による水道整備

1.インフラストラクチャー整備と経済発展
 世界銀行のレポートによれば、図1に示すように、インフラストラクチャー(以下、インフラ)の整備と経済発展の間には正の相関があり、インフラの蓄積が増えれば、国内総生産(GDP)も増えることが指摘されています。したがって、経済発展を進めるためには、インフラの整備を計画的に進めていくことが不可欠といえます。
 ただし、当然のことながら、単にインフラの量を蓄積すれば足りるものではなく、経済発展の段階に応じて、適切なインフラを適切な時期に整備していくことが重要となります。図1からもわかるように、GDPの水準が同じでもインフラの蓄積にはばらつきがあり、国によってはインフラの蓄積が必ずしも生産にうまく結びついていないことがわかります。

2.水道整備の優先順位
 Q22にまとめられているように、経済発展の段階(所得水準)とインフラの構成には一定の関係があり、インフラの種類によって、整備の優先順位 が異なることがわかります。
 Q22の図によれば、経済発展の初期の段階(所得水準の低い段階)では、灌漑や水供給分野のような基礎的なサービスを提供するインフラの整備が優先され、経済発展が進むにつれて、電力、道路、通 信などのサービスを提供するインフラに重点が移っているといえます。
 この図によれば、水供給分野のインフラの構成比は、低所得国(約9%)→中所得国(約6%)→高所得国(約3%)と、経済発展が進むにつれて低下しており、所得の低い段階に整備の重点が置かれていることがわかります。このような傾向は灌漑分野がもっとも顕著ですが、これに次いで水供給分野は、インフラとして整備順位 の高い分野となっています。ただし、水供給分野は整備順位は高いものの、絶対的な投資額としては、低所得国のインフラ全体の約9%を占めるにすぎず、決して大きな割合ではありません。
 以上をまとめると、水道分野は所得水準の低い段階に重点を置いて整備される、灌漑分野に次いで優先順位 の高いインフラといえます。ただし、低所得国の段階でも、インフラへの投資額全体のなかでは1割弱を占めるにすぎないことから、突出して整備されるべきものではなく、灌漑、電力、道路、鉄道などの他のインフラとバランスよく整備されることにより、経済発展に寄与するものといえます。

3.円借款による水道整備と経済発展
 円借款実績の大きなアジアの国々について、具体的な水道整備と経済発展の関係をみてみましょう。表1は、1人あたり国民総生産(GNP)の推移を示しており、表2はこれらの国々の水道事業に対する円借款の実績を示しています。
 現在、中国、インドは世界銀行分類(Q27参照)にいうカテゴリーT〔いわゆる低所得国(low income countries)〕に属しており、インドネシア、フィリピンはカテゴリーU、タイはカテゴリーV〔いずれも低中所得国(lower−middle income countries)〕に属しています。
 表1、2から、円借款を利用した水道整備は、低所得国である中国、インドでも最近積極的に行われていることからわかるように、かなりGNPの低い段階から行われています。しかし、同時に、ある程度GNPが増加してから本格的に行われるともいえそうです。
 たとえば、インドネシアでは、1971年に初めて円借款が供与されていますが、このころはまだ緊急的な事業を対象としており、本格的な水道整備事業に着手したのは1970年代後半からです。当時の1人あたりGNPは、1970年の80ドルから1980年の450ドルへと急増しており、この時期の経済発展により、本格的な水道整備への投資が可能になったものと考えられます。
 同様に、タイやフィリピンでも、1970年代終わりころから円借款による水道整備に本格的に取り組んでいますが、これは、1人あたりGNPが、1970年の約200ドルから1980年の約700ドルに増加した時期と一致しています。
 タイでは、その後順調にGNPが増加しており、現在、高中所得国(upper−middle income countries:いわゆる中進国)のレベルに近づいていますが、1994年度までは円借款による水道事業を積極的に進めてきていることから、少なくとも低所得国〜低中所得国の水準では、円借款による水道事業に対する需要があるといえそうです。
 以上をまとめれば、低所得国として、ある程度の経済発展が進んだ段階から対外借入を活用した本格的な水道整備が可能となり、その後、少なくとも中進国レベルに達するまでは、経済発展と平行して対外借入を活用した水道整備への投資が続けられるものと考えられます。

【参考文献】
1)World Bank:World Development Report 1994, Washington DC, p2―4, 1994.
2)世界国政図会95/96年版,国勢社,p21,1995.

(山本 昌宏)

図1

表1

表2

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