1.2 水道整備に関連する援助機関とNGO


Q8
途上国の水道整備における、世界の援助機関のなかでのわが国の位 置づけを説明してください





  Key words:multi−sectoral アプローチ、参加型開発、組織・制度づくり、環境アセスメント、民営化、資金供与

 以下の点を強調・実施していることが、日本との違いです。

1.multi―sectoral アプローチ
 特に都市における水道整備は、し尿・雑排水処理、雨水排除、ゴミ処理といった環境衛生サービスと相互に深く関係しあっており、こうした関係しあう複数セクターが相互に連携し、調整しあって、全体としてバランスがとれ、投資の重複や手戻りのない都市開発を進めていく必要があります。マルチ/バイの援助機関のマスタープラン作成にかかわる技術協力も多くの場合、そのアプローチはmulti―sectoralです。たとえば、インドネシアのIUIDP(Integrated Urban Infrastructure Development Programme)はこのような発想に基づくものです。従来の日本のアプローチは、1つのセクターの需要性のみをみていたきらいがあり、資金や人的資源に大きな制約のある途上国では、飲料水供給とし尿・雑排水の処理は当該地域社会にとって優先の課題であるという認識が十分でなく、バランスのとれた都市開発のなかでセクターの開発を図っていくという視点が弱かったといえます1)。

2.参加型開発(participatory development)2)3)
 具体的には、「3.4 住民参加型の援助」(Q77〜78)を参照してください。
(1)参加型開発の概念
 いわゆるトップダウン式開発アプローチにおいては、政策決定および実施のすべての過程が途上国政府主導で行われ、住民は受動的立場に置かれる傾向がありました。こうした進め方によって、開発の恩恵を受ける社会層が固定され、都市と農村の格差、貧困などの根強い問題を残したこと、同時に開発プロジェクトの運営管理が適切に進まなかったことから、ひいては開発プロジェクトそのものの効果 と持続性を損なってきたとの反省から生まれてきたのが「参加型開発」です。
 「参加型開発」は、開発の影響を受ける人々が、開発のさまざまな局面において開発の担い手、受益者として開発活動に主体的に参画し、このプロセスを通 じて人々の社会的能力を向上させることによって、自立的かつ持続的な開発および社会的な公正の実現をめざすというのが基本的な考え方です。すなわち、開発プロジェクトの政策決定や実施において、できるだけ地域住民のニーズや意思が反映され、住民自身がプロジェクトの実施および管理、調整面 に主体的にかかわる能力を身につけ、開発の便益を享受できるような、ボトムアップ式の開発の方法を取り入れることが、「参加型開発」です。
 参加型開発の対象としては、コミュニティ、それらを包含した地域社会、国家などの多層多重なレベルがあります。また、参加の態様もさまざまです。
(2)参加型開発を促進または制約する要因4)
 1)プロジェクトの展開に必要な資源が、誰によって、どういった経路で投入利用されるのかという点。すなわち、政府から直接投入されるのか、市場を介して間接的に提供されるのか、または地域社会の伝統的メカニズムを通 じて配分されるのかということである。
 2)誰が適切な資源の配分、供与を行い、どのような組織がその運営管理にあたるのか、そのためにどのような組織間の連関が形成されるべきかという点。たとえば、途上国政府や援助機関は、資源を有していても、地域社会に伝統的に存在する資源運営メカニズムや運営能力を把握して、必要に応じて資源を適切適時に提供する点においては、現地NGOの経験・ノウハウには及ばない。

3.組織・制度づくり(institutional development)5)
 「3.4 住民参加型の援助」(Q77〜78)、「4.4 水道事業の組織と人事制度」(Q116〜121)を参照してください。
 組織・制度づくりは、前記の参加型開発と密接に関係する課題です。institutionは通 常、組織や制度と訳されますが、具体的には、国家の政治・経済・社会の枠組みにかかわる国家の法・制度・組織や、経済メカニズムとしての市場、さらには一般 的な社会的、文化的規範やモラル、コミュニティなどの伝統的慣習を指しています2)。
(1)組織・制度づくりを考える背景
 これまで多くの開発プログラム/プロジェクトが十分な成果を上げることができなかった根本的原因の一つは、資本・技術・サービスの提供に終始し、それらを適切に管理運用していくための能力と規範を備えた組織の形成および制度の整備に十分な配慮をしてこなかったことにあると考えられます。組織とか制度というものが形成される国・地域というものは、おのおのの自然環境・文化・伝統・資源賦与状況、そこから規定されてくる経済・政治・社会のありようによって、すぐれて非普遍的存在です。外部の計画専門家によって導入されたプログラム/プロジェクト組織が、いかに科学的専門性に基づくものであったとしても、またそれが他の国・地域で実証済みのものであったとしても、それが当該国・地域の固有な伝統・経験に基づく組織・制度を無視しては、決してそこに定着し期待された効果 を発揮することはありません。
(2)プロジェクト実施にあたっての組織・制度づくり
 プロジェクト実施地域に適したプロジェクトのルールづくり、援助受入れ側のプロジェクト実施機関、受益者住民の組織強化または組織づくり、プロジェクト実施機関と他の関係機関の関係づくり(システムづくり)を通 じて当該社会に適したメカニズムづくりが行われます。この前提には、プロジェクト対象地域の状況の把握がありますが、特に社会面 の調査が重要となります。

4.代替案の設定
 そもそも計画論として代替案の設定ということがありますが、ここでは開発プロジェクトにおいて典型的に現れる環境アセスメント(environment impact assessment:EIA)の場合について述べます。
 わが国の環境アセスメントの特徴の一つとして、開発計画の内容がある程度固まった事業計画の段階がアセスメントのタイミングとして選ばれています(いわゆる事業アセスメント)。これが原因で、アセスメントによる大幅な計画変更を難しくして、代替案の検討の幅を小さくしています。さらに、計画のマスタープランの評価や、環境以外の観点を含めた総合評価のタイミングを失ってきました。これに対し、米国の場合は、連邦政府の事業だけでなく、計画や政策も対象となり、これらの行為について代替案を検討するため、できるだけ早い段階からアセスメントを行います(いわゆる計画アセスメント)。この代替案検討は義務づけられ、そのなかには事業や計画を中止することを意味する「何もしない」という代替案を含むことが要求されています。
 また、評価項目の範囲についても、米国では、評価項目は、環境質だけでなく、社会・経済影響も含むことになります(たとえば、住民移転も)。日本では、公害、自然環境、文化財が主要な項目で、社会・経済影響は含まれません6)。
 途上国の環境影響評価の手続きは、ある場合、ない場合も含め、国により違いがありますが、援助機関は、国際機関、二国間援助機関とも、環境影響評価を重視するようになっています。たとえば、世界銀行のダム・貯水池の環境アセスメントのterms of referenceのサンプルでは、代替案の分析が項目に含まれています。
 わが国の協力でも、JICA、OECFともガイドライン策定などにより、環境影響評価を行って(または審査して)いますが、日本の制度を反映した発想をしがちです。

5.民営化(privatization)
 「4.3 水道事業の民営化と民活化」(Q109〜115)を参照してください。
 
6.ファンディング(資金供与)
 他の援助機関に資金を供与してプロジェクトを実施すること、会議開催経費の一部負担など、幅の広い資金供与を行っています。

【出 典】
1)開発途上国の都市におけるし尿・雑排水処理の段階的改善手法の開発に関する研究:インドネシアにおける事例研究,国際協力事業団国際協力総合研修所,p14―20,1995.
2)参加型開発と良い統治分野別援助研究会報告書,国際協力事業団,p24―28,1995.
3)貧困問題とその対策:地域社会とその社会的能力育成の重要性,国際協力事業団国際協力総合研修所,p18―29,1995.
4)国際協力におけるJICAとNGOの連携に関する基礎研究報告書,国際協力事業団国際協力総合研修所,p14―15,1995.
5)プロジェクトマネージメントにおける「組織・制度造り」への配慮調査研究報告書,国際協力事業団国際協力総合研修所,p3―19,1994.
6)原科幸彦:環境アセスメント,放送大学教育振興会,p171,1994.

【参考文献】
1)オークレー P:国際開発論入門:住民参加による開発の理念と実践,築地書店,1993.
2)開発調査事業における社会分析ガイドライン策定研究(プロジェクト研究)最終報告書,国際開発センター委託,国際協力事業団社会開発調査部,1992.
 (上水道分野のガイドラインも含まれています).

(渡辺 泰介)

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