1.2 水道整備に関連する援助機関とNGO


Q9
水道分野の援助における世界銀行の役割と特徴を説明してください





  Key words:世界銀行、プロジェクトサイクル、水道・衛生セクター

1.世界銀行の概要
 世界銀行グループは、緊密な関係をもつ4機関により構成される多国間貸付機関で、通 常「世界銀行」の用語はIBRDおよびIDAのみを指します。
(1)国際復興開発銀行:International Bank for Reconstruction and Development(IBRD)
(2)国際開発協会:International Development Association (IDA)
(3)国際金融公社:International Finance Corporation (IFC)
(4)多国間投資保証機関:Multilateral Investment Guarantee Agency (MIGA)
 IBRDとIDAは、組織が別々にあるわけではなく、スタッフは同一で、1つの世界銀行が2つの資金源を使って貸付けを行うかたちになっています。
 1995財政年度の新規貸付承諾額は225億ドル、職員数は6196人(1993年6月末)で、さらに長期・短期コンサルタント、海外事務所の現地職員を加えると約1万人となり、政策対話や構造調整融資などによる途上国の政策への影響力の大きさを考えると、援助する側、途上国側の両方で大変影響力の大きい組織です。
 1995年3月現在の貸付条件は、IBRDの貸付けは、据置期間5年を含む15〜20年の償還期間、金利7.09%で、IDAの貸付けは、据置期間10年を含む35〜40年、無利子(0.75%のサービス手数料あり)で行われます。IBRDとIDAの融資対象国は、融資ガイドラインが定められており、このガイドラインはわが国の無償資金協力、有償資金協力の対象の基準としても活用されています。
 世界銀行の組織は、地域別・政策別の局に別れており、実際の融資については、地域別 の局のなかのInfrastructure Operations Divisionが水道プロジェクトを担当しています。政策については、Transport, Water & Urban Development DepartmentのなかのWater & Sanitation Divisionが担当しています。
 上下水道セクターの貸付承諾額は、1995財政年度で10.4億ドル(セクター別 のなかで全体の4.6%)となっています。
 また、世界銀行は、各種のドナー会合を主催しており、その主要なものが、CG(Consultative Group)会合です。

2.世界銀行のプロジェクトサイクル
 プロジェクトサイクルには、6つの段階があります。
(1)identification(プロジェクトの決定)
(2)preparation(準備)
(3)appraisal(事前審査および精査)
(4)negotiation and board presentation(交渉および承認)
(5)implementation and supervision(実施および監督)
(6)evaluation(プロジェクトの評価)
 融資にあたっては、条件(conditionality)が設定されます。conditionalityの内容、レベルはいろいろなものがありますが、たとえば、水道公社の設立、水道料金の引き上げが盛り込まれる場合もあります。構造調整貸付けなどで、途上国が厳しいconditionalityを受けてでも融資を求めるのは、IMF(国際通 貨基金)、世界銀行との合意が経済政策へのお墨付き機能をもっており、交渉がまとまれば、援助国、民間銀行などから、世界銀行が貸す金額に数倍する金融支援が可能となるからで、これは「触媒作用」と呼ばれています1)。
 また、世界銀行は、国別の経済調査、セクター調査を行っています。これらのなかで、セクター開発戦略が作成されたり、Public Investment Programといったペーパーのなかで、投資プロジェクトリストが作成されたりしています。

3.水道・衛生セクターのポリシー2)
 水道・衛生セクターのプロジェクトを効果的に実施するために、4つのポリシーを定めています。
(1)費用の回収に配慮すること
 十分な費用の回収(cost recovery)がされない限り、施設の維持・運営ができず、結果 的にはその施設が故障して使用できなくなります。
(2)住民の参加を促進すること
 従来、住民がプロジェクトの計画・実施に参画しなかったことが、失敗する大きな原因となっています。施設計画の初期の段階から住民が関与していない限り、住民はその施設を大切にしないため、結果 的にはその施設が有効に使用されず、また故障しても修理されないで放置されることになります。
(3)女性の参加を促進すること
 女性は、水道・衛生サービスの大きな受益者ですが、今まではその参加がなかったため、施設が有効に使用されず、また大切にされないことになります。
(4)サービス形態を改善すること
 ほとんどの国では、農村部の水道は公的サービスと考えられ、中央政府が独占的に実施してきました。これによって、上記(1)〜(3)などの多くの問題が生じているので、地域住民の組織による施設建設、民間セクターによる施設建設などの代替案を考えるべきです。

4.わが国の協力との関連
 途上国は、世界銀行などの構造調整融資、プロジェクト融資を受ける際、conditionalityを受け入れますが、往々にして、わが国にconditionalityに合わない協力を要請するケース(たとえば、conditionalityでセクターの投資についてリハビリテーションを優先することにしている場合)があり、注意を要します。また、世界銀行は、国営企業、公社の民営化を推進しており、この点についても注意が必要です。これらの意味でも、途上国の政策に影響力の強い世界銀行の動きについての情報収集は重要です。

【出 典】
1)大野健一,大野泉:IMFと世界銀行:内側から見た開発金融機関,日本評論社,1993.
2)水道・衛生分野の技術移転:援助活動の動向と情報,国際協力事業団国際協力総合研修所,p45―46,1989.

【参考文献】
1)白鳥正喜:世界銀行グループ:途上国援助と日本の役割,国際開発ジャーナル社,1995.

(渡辺 泰介)

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