3.6 水道整備と環境配慮


Q81
水道施設を計画する場合の環境配慮について説明してください





  Key words:環境配慮、表流水源、地下水水源

1.開発プロジェクトにおける環境配慮について
 開発プロジェクトは一次的な対応で終わらせるものではなく、住民の生活向上のために持続的な開発を推進し、適切な環境保全に留意して行わなければなりません。特に環境影響が生じる場合は、必要に応じて環境影響を回避し、あるいは軽減する必要があります。すでにJICAの開発調査では事前調査にあたって、社会環境、自然環境、公害の現況調査およびその評価を義務づけています。社会環境、自然環境および公害に関する調査内容を表1に記述します。

2.上水道における環境影響
 上水道プロジェクトにおいてしばしば問題になる環境項目は表2のとおりです。

3.事 例
(1)表流水源について
 上記のように水道プロジェクトにおいては環境配慮は必要な事項となります。特に水源 (表流水、地下水)に対してはおろそかにできないと思います。一つの例ですが、ナクル地区水道(ケニア)の水資源開発計画の際に出た問題です。ケニア大地溝のなかで唯一の淡水湖であるナイバシャ湖に注ぐマレワ川の上流を締め切って水道専用ダムをつくり10万m3/日をナクル地区に給水する計画が策定されました。すでにダム予定地点の下流でマレワ川に合流するトラシャ川から日量 2万m3取水してナクル地区へ給水する施設の建設が進行していました。
 結局ナイバシャ湖に流入しているマレワ川から日量12万m3が取られるので当然ナイバシャ湖の水位 は下降します。マレワ川の水文資料から水位の下降は最大約3mと推定されました。一方、マレワ川から西方約50q離れたナクル地区に浄水として送られる日量 約13000m3は、使用後は汚水となって処理された後、フラミンゴの生息で有名なナクル湖へ放流されます。ナクル湖以外の吐口がまったくないからです。つまりマレワ川の流水が流域変更されるわけですからナクル湖の水位 が上昇することになります。最大9mまで上昇すると推定されました。ナクル湖が淡水で薄められると、フラミンゴの餌となる藻類がなくなる心配が出てきます。計画の成否に大きく影響することになります。特にナクル湖はラムサール条約によって生態系保護の監視下にあります。したがって湖に流入する排水も汚水排水基準によって規制されています。
 上記のケースは特殊の場合かもしれませんが、表流水には必ずといってよいくらいに農業用水利がからんできます。さらに湖がある場合は湖の利用者、たとえば漁業に対する慣行権もトラブルのもととなりかねません。こういう面 の環境配慮が必要になってきます。
(2)地下水水源について
 途上国では大規模水道を除いて多くの場合、容易に地下水を得ることができる(バングラデシュ、カンボジア、ケニアなど)こと、地下水以外頼る水源が乏しい(ヨルダン、シリア、モロッコなど)ことを含めて、運転管理が容易なために水道水を地下水に依存しています。ザルカ水道(ヨルダン)のアズラック水源井のように、井戸間隔を2qにとり相互干渉を避けるようにして、砂漠の中に1980年代に掘った16本の井戸から日量 53000 m3汲み上げています。実際には過剰汲み上げによって運転水位が降下し、一方、溶解物質含有量 が年々増加している傾向にあります。以前、井戸群の近くにオアシスがあって、近くにある城砦遺跡に発展した小部落の生活用水供給源だったのが、地下水の汲み上げによってまったく姿を消すことになったといわれています。結局、現在は井戸水を集めてアンマン・ザルカ地区に送るポンプ場からそれら部落に給水している現状です。
 チッタゴン市(バングラデシュ)郊外にあるカルナフリ・アンモニア肥料工場は、その工場用水を地下水に求め、6本(うち2本予備井)の井戸から日量 19200m3(1井あたり毎時200m3)汲み上げていますが、稼働後数カ月を経ずして農民の畑地用水プールの水位 が下がったということで、大きな問題となったことがありましたが、井戸の帯水層の位 置が地表下100m以下の場所なので影響するわけはないと工場側は取り合いませんでした。地下水を取水する計画を立案する以上、このような環境配慮は必要になってきます。
 これもチッタゴンの例です。チッタゴン市の給水人口は91万5000人で、日量 15万5000m3を給水しています。そのうち日量9万1000m3を新設浄水場から、6万4000m3を32本の井戸から給水しています。地下水は鉄分が2.2〜5.5mg/リットル含有しているので、除鉄(エアレーション・沈澱・ろ過処理)後何とか1.0mg/リットルまで落として給水しています。当時は市街地の北はずれだったのでしょうが今では街の中心部になっています。沈澱池排水、ろ過池洗浄排水は昔のまま近くの小河川に放流していますが、いずれ近くの井戸群は寿命もくることでしょうから、現在の市の北部境界に近い井戸群を中心とした除鉄浄水場が表流水浄水場の近くにつくられるものと期待しています。将来の都市計画を十分に考慮して計画を立案することが、環境配慮とは直接関係ないかもしれませんが、大事なことです。

(大山 藤夫)

表1

表2

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