3.6 水道整備と環境配慮


Q82
水道整備の結果として生活排水が増加しますが、環境配慮のうえからどう対処すべきですか





  Key words:生活排水、環境配慮

1.水供給と衛生設備
 人間の生活に最小限欠くべからざるものは水と排泄物処理の衛生設備(トイレ)です。住民の生活状態を向上させ、伝染病の脅威から守るために公衆衛生の向上を図り、産業の育成、および学校・病院など公共施設の増強を目的として、農村部への給水設備および衛生設備の設置が国連機関および先進各国の援助によって行われてきています。生活状態の向上につれて水使用量 が増加し、同時に使用済みの排水の量も増加することになります。生活用水を河川、湖沼などの遠い水源から人力運搬に頼っている場合、水はほとんど飲料、食器洗い、シャワー用のみに使用されるために1人1日あたりの消費量 は15〜20と非常に少ないはずです。給水設備はこの労力を減少させて、運搬という労働から解放された労力を教育の強化、産業の育成にあてて収入増加を図り、生活状態の向上をめざすために、供給点を今までの水源から使用者の近くまでもってくるようになります。水の供給点も公共使用栓から建物構内/敷地内の給水栓へ、さらに各戸給水栓へと設置するようになり、水使用量 も1人1日あたり100以下から100以上へと増加することになります。つまりそれだけ排水される量 が増加することを意味します。
 一方、生活に密接に関係あるトイレも、生活状態の向上とともに、排泄物の処理を人力運搬から真空ポンプ車運搬へ、水で洗い流すトイレは浸透式(pour―flush、soakaway、septic―tank)処分から衛生設備の最終段階である下水道施設による処分へと、さらに水の使用量 および排水量が増加することになります。

2.都市部と農村部との違い
 ほとんどの都市部は水道施設を有し、また雨水排除のための都市排水設備は不十分ながら設備されています。下水道施設のない都市では、生活排水はこの雨水排出溝に放流されています。各家庭のトイレは水をかけて流す水洗タイプ(pour―flush toilet)が多く、富裕層や事務所では浄化槽(septic―tank)方式が使用されています。いずれも地下への浸透式です。
 また地方農村部の家庭はその生活用水を、近い所では手押しポンプの共同井戸、雨水だまり、貯水池などから、遠くは数時間かけて河川あるいは湖沼からの運搬で手に入れています。つまり運搬時間によって1人あたりの使用水量 が変わってきます。トイレもほとんどがピット式トイレで浸透式処分によっています。水の使用量 も少ないので生活排水は排水溝あるいは空き地に捨てて浸透処分によっているようです。

3.事 例
 今までの経験から得た途上国の現状を最初に説明します。英国の統治下にあった国々の首都および主要都市は、都市給水設備と曲がりなりにも下水道設備を有しています。たとえば、ケニア、モーリシャス、ヨルダンなどです。またパキスタンで世界銀行融資によって1960年代および1980年代に行った、ラホールおよびファイザラバードの水道施設拡張には下水道施設の拡張も含まれていました。水道水が使用された後に排水となって流出する考え方です。しかしバンコク市やジャカルタ市では都市水道施設は古くから整備されましたが、一部の下水道設備がごく最近になって建設されているようです。しかしどの都市も雨水排除のための都市排水施設はほぼ整備されています。汚水排水よりも雨水排水を優先した行政の結果 です。したがってトイレ排水を除く家庭排水はこの都市排水路に排水され、降雨時希釈されて川に流出しているのが現状です。
 バングラデシュ第2の都市であるチッタゴン市(人口153万人)は、西はベンガル湾に、東はカルナフリ川という大河に接し、都市排水路は東西の吐け口に向かって整備されており、毎年のサイクロンによる洪水被害を防ぐべく排水路の拡幅をわずかずつ実施していますが、下水道設備はまったくありません。したがって家庭排水のみならず工場排水もまたこの都市排水路に放流されていますので、特に工場地帯では有害物質まで排水されている現状です。都市への人口集中のため給水不足をきたし、現在水道施設拡張のため資金提供のドナーを探しているということです。下水道整備には水道施設拡張の何倍もの資金を必要としますので、まず無条件で、必要な飲料水供給を優先することにしたのでしょう。このような場合、どのように対処すべきか残念ながら答えは出てきません。
 一方、ケニアのナクル地区水道のような例もあります。ナクル地区水道施設はOECFの融資で施設拡張しましたが、ナクル市の下水処理場施設が設計容量 の半分だったこと、および下水処理水がナクル湖へ放流されるのでナクル湖環境保全によって排水が規制されていることから、給水した水量 が使用後、無処理でナクル湖に排水されては、という憂いからOECFは日量6000m3の処理場施設が完了するまで給水停止をケニア政府に通 告しました。結局、設計6カ月、工事1カ年を経て下水処理施設拡張工事は完了し、現在は全給水量 が供給されています。下水処理場ができるまでの間、ナクル市東西両端に設置した配水池まで浄水が送られてきていましたから、実際は給水されて、排水は十分な処理もされずにナクル湖に流入する河川に放流されていたのだろうと考えます。
 ポートルイス(モーリシャス)およびザルカ市(ヨルダン)は下水道施設が整備されていました。したがって下水本管の能力、処理場への圧送ポンプ設備の能力、下水処理場設備の能力などが調査の対象となりました。モーリシャスは島国なので、周りの海は観光および漁業環境保全が厳しく、ために下水道設備が整備されています。余談になりますが、今後一次沈澱処理を高級処理にすべくアフリカ開発銀行が調査開始の準備を進めていました。このように下水道が整備されている都市はやはり少ないです。下水道施設未整備の都市に対して水道施設整備する場合、排水について環境配慮上どう対応すべきか、答えが見い出せないことが結論です。

(大山 藤夫)

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