3.7 水道とエネルギー


Q84
水道システムのランニングエネルギーの消費割合について説明してください





  Key words:エネルギー消費量、ランニングエネルギー、イニシャルエネルギー、省エネルギー

1.エネルギー消費量分析の重要性
 オイルショックなどをきっかけに、1970年代に省資源・省エネルギーの研究が全産業分野において盛んになりました。このなかで、エネルギー消費を総合的に分析し、省エネルギー対策を導き出そうとするエネルギーアナリシスやライフサイクルエネルギーの考え方が注目され始めました。ライフサイクルエネルギーとは、産業活動の消費エネルギーを、 単にでき上がった施設の運転エネルギーだけでなく、維持管理のエネルギーや消耗原材料に投入されるエネルギー(ランニングエネルギー)、さらには施設の新設から廃棄に至るまですべての段階の施設築造や設備設置にかかわる投入エネルギー(イニシャルエネルギー)を合計した量 を考察するものです。特に、1980年代後半から関心の高まった地球温暖化対策としての二酸化炭素の排出抑制のためにこれらの考え方は重要です。150カ国以上が調印した1992年の「気候変動に関する枠組み条約」では、温室効果 ガスの排出量を2000年までに従前のレベルへ回帰させるという目標が設定されていますが、これは人類全体の生活水準の向上を同時に図りながらのことですからきわめて厳しい目標です。あらゆる産業活動・人間活動が一致協力せねば達成できません。
 ライフサイクルエネルギーの計算においては、電力消費といった直接的なランニングエネルギーの計算は比較的簡単ですが、消耗原材料への投入エネルギーやイニシャルエネルギーの計算は非常に複雑です。間接的に投入されたエネルギーをすべて拾い上げるために、直接的な投入エネルギーがわかるまで細かく素材に分け、素材量 や加工手間にエネルギー原単位を掛けそれを再び積み上げるという作業を繰り返す積み上げ計算が基本です。しかし、この方式だと作業が膨大になることと、データの入手が困難という問題があります。そのため、やや簡便な方法としては、費用から計算する方法があります。産業連関分析(通 産省から定期的に出される産業連関表などを参照)による、産業分野ごとの価格と投入エネルギーの換算率(エネルギー集中度)を使い、費用に掛けて計算する方法です。産業分類ごとの一律の係数を使うため、各事業の個別 の条件が考慮されにくく、誤差が大きくなるという問題があります。

2.水道に関するエネルギー消費量の研究
 1996年度の水道統計によれば、全国の水道事業の年間電力使用量は約79億kWhであり、日本全体の電力使用量 の約0.9%を占めており、1つの業種としては相当に大きなものです。しかし水道のエネルギー問題を扱った研究や文献はあまり多くありません。そのなかで『省エネルギー水道システムの設計に関する調査報告書』や『水道管路システムの省エネルギー対策の基礎調査報告書』がまとまったものです。また、エネルギーアナリシスとしては、『地球環境時代の水道』1)での池田らの計算(資料@)、『家庭生活のライフサイクル・エネルギー』2)での久保田の計算(資料A)や、『エネルギー・アナリシスによる水循環システムの評価』3)での松本らの研究(資料B)があります。これらの著者はいずれも、計算の難しさと条件の違いによる変動の可能性を述べており、特にイニシャル部分の計算結果 には大きな開きが出ています。
 ランニングエネルギーの結果について紹介すると、いずれの資料でも規模や都市の条件によって違いがあり普遍化しにくいとしていますが、それぞれ、ある規模の都市を仮定したモデルをつくり、積み上げ方式と集中度方式を組み合わせて計算しています。現状の都市の実情をそのまま集め計算することは非常に複雑で資料の入手も困難なため、ある程度単純化したモデル計算を行っています。資料@では、1.1〜1.7Mcal/m3(規模別 に4種類のモデルを想定)、資料Aでは0.59Mcal/m3(自然流下方式で日最大能力40万m3のモデル計算によるもの、それ以外に大規模事業体の実績をベースにした1.22Mcal/m3という値も算出している)、資料Bでは1.86Mcal/m3(465万世帯の大都市を想定)の値が使われています〔各資料で、分類や単位 が異なるので同じベースに換算した。エネルギーの単位として、国際単位系(SI)ではジュールを使うが、日本でなじみ深いカロリー単位 で、水道水1m3あたりの投入エネルギーで示した。1cal=4.1868J〕。

3.各施設のランニングエネルギーの消費割合
 図1〜3は上記資料の計算結果を取水・導水、浄水、送配水の3段階に分類し表示したものですが、数値に差があります。資料@で浄水段階のエネルギーが大きいのは、浄水場内にある配水ポンプを浄水段階に算入していることによります。資料Aは、浄水場や配水池が標高の高い位 置にある自然流下的なモデルで、取水・導水段階のポンプエネルギーが大きな割合を占めますが、全体のランニングエネルギーの値は小さくなっています。資料Bで取水・導水の割合がきわめて小さいのは河川の下流部で取水し、ほとんど標高差のない広い区域に配水するモデルを想定しているためと思われます。また、浄水段階の割合が大きいのは資料@と同じ理由によると思われます。
 なお、資料@と資料Aでは施設補修にかかわるエネルギーは、ランニング部分には算入されていません。また、資料Aでは薬品などの材料分のエネルギーは、原単位 が不明として計算に入っていません。また、資料Bでは浄水処理の細目は示されていません。

4.浄水処理におけるランニングエネルギーの消費割合
 図4は資料@における浄水場段階のランニングエネルギーについて細分類を示したものです。前述のように配水ポンプのエネルギーを含みますが、浄水場における水移送のためのポンプエネルギーは非常に大きくなっています。薬品処理(薬品ポンプの運転エネルギーも含む)、排水処理はそれぞれ6.3%、5.4%と続きますが大きな割合ではありません。沈澱池のフロッキュレーター、ろ過池の逆洗、その他の光熱エネルギーなども大きな割合ではありません。
 資料@で用いている薬品などの使用量とエネルギー原単位は表1のようになっています。また、エネルギーアナリシスにおいては、電力使用量 を投入エネルギーに換算するときには、発電効率や発電所の建設などのイニシャル分も含み込むために、単純な1cal=4.1868W×秒という関係よりずっと大きな値になります。資料@では2000kcal/kWh、資料ABでは2250kcal/kWhの値を使っています。

5.水道における省エネルギー対策
 これらの資料で全体的にいえることは、取水・導水から配水に至るまでのポンプエネルギー、つまり水の輸送エネルギーの割合がきわめて大きいことです。それゆえ、地形をうまく利用した自然流下的な配水の場合に比べて、平坦な地形では配水のためのエネルギーが非常に大きくなります。そこで、資料@では、省エネルギー対策として、ポンプの効率的運用や省エネルギーを考慮した配水管網の設計が重要としています。また、原水の水質悪化により高度処理を導入せねばならなくなると、0.22Mcal/m3(イニシャル分も含む) 程度増えると計算して河川などの水質保全が大切としています。さらに資料@では配水管の敷設を代表とするイニシャルエネルギーはランニングエネルギーを上回っており、イニシャルエネルギーの抑制も重要であり、施設規模の適正化などの配慮が必要としています。
 水道事業は今後、いっそう設備改善や効率的な施設運用で省エネルギー化を図らねばなりません。また、ランニングエネルギーの消費は比較的少なくても、イニシャルエネルギーが大きなものでは本当の省エネルギーにはなりません。これからの水道施設の新設や更新の計画においては、地球環境問題まで射程に入れ、エネルギーアナリシスやエネルギーアセスメントによるアプローチが不可欠となってくるといえるでしょう。

【出 典】
1)水道と地球環境を考える会編:地球環境時代の水道,技報堂出版,1992.
2)資源協会編:家庭生活のライフサイクル・エネルギー,資源協会,1994.
3)松本重行・山本和夫:エネルギー・アナリシスによる水循環システムの評価.環境システム研究21:p355―363,1993.

【参考文献】
1)茅陽一:エネルギー・アナリシス,電力新報社,1980.
2)日本水道協会:省エネルギー水道システムの設計に関する調査報告書,1984.
3)管路技術センター:水道管路システムの省エネルギー対策の基礎調査報告書,1993.

(今井 茂樹,小林 成行)

図1,2,3,4 表1

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