3.7 水道とエネルギー


Q86
原水汚濁防止について、水道システムのランニングエネルギー節約の視点から説明してください





  Key words:原水汚濁防止、ランニングエネルギー、浄水処理

1.原水汚濁防止による水道のランニングエネルギーの節約
 日本では、第2次世界大戦後の経済拡張期に起きた、有機水銀やカドミウムなどの水質汚染による人的被害を教訓にして、現在では、水質汚濁防止法による排水規制の強化などにより、有害物質による水質汚染はほとんどなくなりました。その一方で、産業の多様化による化学物質の使用拡大など、有害物質による原水汚濁の懸念は残されているものの、生活系や農業系の排水による原水汚濁が、新たな問題として浮上してきました。
 生活系の排水のうちし尿については、し尿処理、下水道処理、浄化槽処理などにより、100%の処理が行われていますが、台所や風呂などのいわゆる生活雑排水については、完全な処理が行われていない状況です。このため、下水道や合併処理浄化槽が未整備で生活雑排水が流入する河川などでは、カルキ臭発生のもととなるアンモニア性窒素やトリハロメタン前駆物質などの有機物質の増加が大きな問題になっています。
 さらに農業系排水においても、農薬では、除草剤のクロルニトロフェン(CNP)と胆Nがんの死亡率に関して地域的な相関関係が認められるとの疫学調査から、安全性に疑問がもたれる問題が生じました。肥料では、窒素肥料が地下に浸透していく過程で還元され、メトヘモグロビン血症の原因になる亜硝酸性窒素や硝酸性窒素濃度が増加する地下水汚染が生じています。
 化学物質は、環境での分解が困難なため、排水規制の強化を図り、有害物質を扱う事業場では、系外への流出を防止するクローズドシステムによる処理を徹底する必要があります。また、農薬は農薬取締法に基づく規制や指導の強化、肥料は適正使用の指導強化を図る必要があります。
 特に、原水汚濁の原因になっている生活系排水の処理については、1996年度末における日本の汚水衛生処理率は56%と、やっと半分を超えたところであり、普及を急ぐ必要があります。
 浄水処理で支障になるアンモニア性窒素は、その除去のために約10倍量の塩素を必要とするとともに、カルキ臭のもとになります。日本の平均的な浄水場での塩素注入率は4mg/程度であり、原水のアンモニア性窒素濃度が0.1mg/低下しただけで、注入率は3mg/に低下し、他の薬品の注入率も同様の低下が期待できますので、薬品注入に関するエネルギーの25%が削減できます。さらに、水道事業のエネルギー消費の分析結果 によれば、水道施設全体のランニングエネルギーのうち、薬品処理は6.3%を占めており、これを25%削減することにより、水道施設全体のエネルギーを1.5%(6.3×0.25)低減させることができます。このことからも原水汚濁防止のため、下水道や合併処理浄化槽の整備を急ぐ必要があります。

2.原水水質によるランニングエネルギー
 現在、通常の下水処理に用いられている活性汚泥法の放流水BOD濃度は、下水道法第8条に基づく技術上の基準によれば、20mg/以下です。これを基準に考えると、生活環境の保全に関する環境基準における最低ランクのE類型(BOD10mg/以下)で2倍希釈、水道3級のBランク(BOD3mg/以下)では7倍希釈の河川流量 が必要です。放流水のアンモニア性窒素濃度は、一般的に約20mg/程度であり、実際には、放流水や河川水の水質、自浄作用能力などによって変化するにしても、水利用目的に適合させるためには、放流先での十分な希釈が必要になります。
 日本のように河川末端の沖積平野に人口が集中し、河川流量が少なく希釈効果 が望めない所では、通常の下水処理程度では、下流の水利用目的に適合した河川水水質を確保できない場合があります。また、貯水池などの閉鎖性水域では、窒素やリンの流入による富栄養化で藍藻類が発生し、かび臭などの異臭味が発生する問題も生じます。
 浄水処理方法は、原水水質が計画上想定される最悪の場合でも、確実に処理ができ、浄水水質の管理目標値を満足できるものでなければなりません。現在、通 常用いられている急速ろ過法は、懸濁物質の除去には優れていますが、溶解性物質の除去能力は低く、原水汚濁で問題になっている臭気、トリハロメタン前駆物質、アンモニア性窒素、農薬などの除去には限界があります。
 このような汚濁物質を除去するためには、除去対象物質に応じて、活性炭処理、オゾン処理、生物処理などの高度浄水施設を単体であるいは組み合わせて導入する必要があります。原水汚濁が一過性ならば、粉末活性炭注入設備の設置で対応できますが、原水汚濁が恒常化し、また、濃度変動が激しい場合には、オゾン処理や粒状活性炭吸着処理などの恒久施設が必要になります。26万m3/日のオゾン処理と活性炭吸着処理を導入した東京都水道局金町浄水場の試算では、約20円/m3の経費増が見込まれるように、処理の高度化には多額の費用とエネルギーを要します。
 原水水質とエネルギー消費量を比較検討した調査によれば、地下水を100とした場合、表1のようになるという報告もあります。
 このように、同じ処理方法でも原水の汚濁が進行し薬品注入量が増えると、2割、3割とランニングエネルギーが増加します。さらに、高度浄水処理を導入すると、地下水に比べて7割、清浄な表流水と比べると5割もランニングエネルギーが増加します。したがって、いかにして清浄な原水を得るかということが、水道システムのランニングエネルギー節約の視点からは重要になります。

【参考文献】
1)水道と地球環境を考える研究会編:地球環境時代の水道,技報堂出版,1992.

(黒崎 武聰)

表1

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