4.1 水道事業の経営と財務


Q97
無償資金協力によって取得した資産を相手国は減価償却をする必要がありますか





  Key words:無償資金協力、減価償却、有形固定資産

1.減価償却とは
 減価償却は、建物、機械装置などのように一定の期間事業活動(収益獲得活動)に役立てられ、しかもこの期間を経過すると役立たなくなる資産について、その取得原価を当該期間にわたって各事業年度にその期の費用として配分する会計上の手続きで、これによって各事業年度の損益状況を合理的に把握できるわけです。
 人件費、材料費など多くの費用は支出のあった期の収益獲得に直接貢献しています。したがってそれらの費用は支出のあった期の獲得収益によって回収され、回収剰余額がその期の事業利益を構成することになります。ところが上記のような資産(これらは有形固定資産と呼ばれます)は、その性質上何年にもわたって使用され、耐用年数が尽きて役に立たなくなるまで継続して各期の収益獲得に貢献します。したがって有形固定資産の原価はその取得時に一気に費用として計上するのではなく、収益との対応上その使用期間(耐用年数)にわたって一定の規則に基づいて徐々に費用化させないと、各期の損益状況の表示を歪めてしまうことになります。

2.減価償却の実際
 上記のように毎期規則的に計上される減価償却費は、同期の獲得収益によって回収されていきます。ところが、人件費のように同期に支出のあった費用とは異なり減価償却費の場合には単に計算上その期に配分された費用であり、実際の支出は過去のものであってその事業年度に発生したわけではありません。それにもかかわらず同期の獲得収益によって現金などによる回収が行われるわけですから、結果 として、減価償却費として計上した金額と同額の現金などがリザーブされることになります。これが毎年の減価償却と同時に自動的に積み立てられることになり、ちょうど耐用年数が尽きて全額の償却が終わったとき、当該資産の原価と同額(残存価額を設けた場合にはそれを差し引いた額)が事業体内に留保されていることになり、これが新規資産取得の財源になるわけです。
 このように、たとえそれが無償で獲得した資産であっても、適切な取得原価を付し、それに基づいて規則的な減価償却を行っていくべきです。減価償却を怠ることにより投資のための内部留保が不足し、適切な設備更新が行われないといったことは、途上国の水道事業でよく見受けられる事例です。

3.途上国での減価償却の実状
 水道事業の財務体制によって減価償却についての考え方が違います。@完全な独立採算の形態をとっている事業体、A事業体の財務が独立していない事業体に分けられます。
(1)完全独立採算形態での事業体
 一般に国際機関からの借款を受けている事業体は国際基準での会計処理をしていますから、減価償却の概念もあり、無償資金協力でも減価償却をしています、各国の都市水道事業体の多くはこの形態です。しかし、この場合、事業体によって減価償却の取り扱いに差があるようです。つまり、会計項目のなかには減価償却がありますが実態は内部留保されていない例です。また、独立採算の形態は首都圏の事業体から大都市、そして地方都市の事業体へと順次確立される途上にあります。例として、インドネシアではすでに地方水道の事業体(Prusahaan Daerah Air Munum:PDAM:地方水道公社)まで独立採算形態をとっていますが、ネパールではまだ大都市の事業体(Nepal Water Supply and Sewerage Corporation:NWSSC:ネパール上下水道公社)までです。
(2)財務が独立していない事業体
 水道料金は市の一般会計に組み入れられたり、または国庫に税金として納入されます。この例としてはミャンマーや各国の地方小都市水道が実施例です。ただし、これらの地域にも水道事業体はあり、財務管理はしています。ただし、歳入が予算の配分からくるわけです。この場合、新規事業や修理にかかわる費用は事業体内で手当てする必要がなく、すべて国または市からの補助によるわけですから、減価償却は考慮する必要がないわけです。ただし、事業体が必要なときに必要な額が予算化される保証はありません。

(岡賀 敏文)

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