4.1 水道事業の経営と財務


Q98
途上国で多く用いられている水道料金制度について説明してください





  Key words:水道料金制度、料金体系、料率

1.水道料金の考え方は水道経営のかたちの反映
 水道料金制度自体については、途上国であるか否かを問わず、大きな違いはないはずです。大きな違いがあるとすれば、水道経営のかたちが違っている場合が考えられます。
 一般的には企業として経営され、事業者と使用者との関係は、施設を利用する継続供給契約になっています。この場合、その料金は、事業者が定めて、これを承認する使用者が供給を受けるという関係(附従契約)になります。また、多くの国では、事業者が地方の政府なので、料金制度を定めるにあたり、その議会が関与する場合も少なくありません。しかし、国や地方の政府が、設備をつくったり購入したりして、それを提供するだけという考え方をすれば、これは行政そのものとして税収でまかなうこととなります。
 近年では、受益者が、受益の程度に応じて負担するという考え方が一般的です。つまり、使用者に供給するために必要なコストに基づいて、料金の体系と率を設定しています。

2.国の事情や社会背景に左右される料金体系と料率の設定
 コストが具体的にはどういうものかということになると、決してやさしいものではありません。供給内容と切り離しては考えられないものですから、政策の影響を受ける傾向が強く、経済社会の成熟度合い、政治の安定度合いの影響を受けやすいのですが、途上国の場合、このような背景が必ずしも明確には把握できない面 が多いので、料金の体系や率が、理解しにくいこともあります。
 JICAの水道に関する協力のなかで、東京都が水道経営について、専門家派遣による技術協力をした国としてはタイとインドネシアがあります。両国の水道料金制度は、料金表や政府の指導をみる限り、コストの配分方法に違いはありますが、日本の場合と基本的な違いはありません。両国の首都の料金体系と料率を事例として要約してみましょう。
(1)タイの首都水道の料金(1992年10月施行)
 1)用途別
 @家庭用、A商業・国営企業・政府機関用、B産業用の3分類。
 2)基本料金
 家庭用は5m3まで20バーツ、その他は10m3まで50バーツ。
 3)従量料金
  @家庭用は12区分で4バーツから9.95バーツまで逓増(区分点m3=30、40、50、60、70、80、90、100、120、160、200)。
  A商業用などは11区分で6.2バーツから11.31バーツまで逓増(区分点m3=20、30、40、50、60、80、100、120、160、200)。
  B産業用は19区分で6.2バーツから11.18バーツ(201〜2000m3)までの逓増と6.5バーツまでの逓減(従量 区分、金額とも200m3までは商業用などと同じ。以降の区分点m3=2000、4000、6000、10000、20000、30000、40000、50000)。
(2)インドネシアのジャカルタ首都圏水道の料金(1994年)
 1)用途別従量料金
 全体で5用途18分類の用途別料金で、一部の分類ではさらに30、50m3を区分点にした逓増制(最低390ルピア、最高5050ルピアの従量 料金)。
  @社会的用途:公共施設(寄宿舎、社会施設、孤児院など)、特定施設(公営病院)。
  A非商業用途:家庭用A(超簡易建築物と公営住宅)、家庭用B(簡易建築物)、家庭用C(中級建築物)、家庭用D(高級建築物)、家庭用E(領事・大使館)、政府施設(事務所、外国公館、非商業施設、学校など)。
  B商業用途:小規模A(小商店、小規模作業所、家内工業、理髪、洋裁など)、小規模B(小飲食店、個人病医院・研究所、弁護士事務所、簡易宿泊所など)、大規模A(下中級ホテル、特殊浴場・飲食店、高級理髪、銀行、大規模作業所、会社、取引所など)、大規模B(高級ホテル、高層ビル・住宅)。
  C産業用途:小規模、大規模(氷・食品・衣料品・化学製品・化粧品製造、倉庫、冷凍貯蔵所、貿易その他産業)。
  D特別用途:消火栓・公共用栓、給水拠点、船舶給水、特定場所。
 2)メーター設置・維持費
 12種口径別に1装置1000〜110000ルピア/月。
 3)管理費
 料金請求の8ケース別に1請求1000〜30000ルピア。通常、消火栓用特別、名義変更、検針、公認メーター、水質試験(非商業用、商業用)、喪失メーター票補充。
 4)保証金
 家庭用、商業用、小商業用の別に1請求25000〜200000ルピア。
 ところが、たとえばインドネシアでは、支払い能力に応じた料率設定という考え方が指導されています。この考え方は、強弱の違いはあっても、途上国では比較的使われやすいものです。

3.不足しがちな「事業運営のための料金」の視点
 途上国では、経済力が弱いため、企業や地方政府が独力で水道を建設するには困難が多く、拡張や時には維持管理についても、国や外国からの援助に頼る傾向があります。このような状態は、自主的な水道経営が難しいことを意味すると同時に、水道料金に対する考え方にも大きな影響をもたらしています。
 公企業の場合、利益を生む必要まではありませんが、独立して採算を確保しなければなりませんし、事業運営がきちんとされているということは、その時だけの問題ではなく、将来の使用者にも供給を保障することですから、維持管理や需要増に備えた拡張に必要な費用も均等に回収していく必要があります。
 飲める水が供給できない、有収率が上昇するどころか低下するなどの現象があれば、料金体系や率が先進国と同様でも、やはり問題があると考えるべきでしょう。バンコクやジャカルタの例のような場合でも、料金制度としては成熟したものにみえても、料金の前提となるコストに、必要な施策が十分反映されていないことが指摘できます。現在、途上国の水道は、ほとんどがこのような状況にあるといえます。
 また、料金といえば、サービスの内容や量にしたがって支払う対価、というのが一般 的な概念ですし、水道の場合、このためにメーターが開発、改良されてきましたが、メーターを使わない門別 料金や定額料金もあります。そして、途上国では、メーター設置の経費を避けるために、定額制を採用する場合が少なくないようです。この場合、確かにメーターのコストは回避できますが、どうしても需要家間の不公平が大きくなり、支払い意欲を削ぎ、結果 として経営を圧迫する危険を内包しています。貧しいがゆえのやむをえない実態が、水道経営を破綻させ、貧しい階層から水道の恩恵を奪うという、悪循環の原因となってしまう現実を、残念なことですが認識しなければなりません。

(野津 博道)

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