4.2 水道料金制度


Q99
水道料金制度の妥当性のチェックポイントと、その手順を説明してください





  Key words:水道料金制度、運営経費、投資的経費、需要の予測

1.必要なサービスが提供されているか
 日本では、水道事業自体の進展とともにその料金制度も発達してきており、各企業とも事業環境の変化に対して、創意工夫を加えることで料金制度の妥当性を確保しています。
 しかし、途上国では、先進諸国を参考にしながら、時にはそのまま踏襲し、時には試行錯誤を繰り返している段階にあるといってよいでしょう。そして、この面 でも、国の指導の影響を強く受けています。
 JICAの専門家をはじめとして、途上国に赴任する日本人が誤解しやすいある傾向があります。水道だけに限らないのかもしれませんが、とにかく供給が不足しているのだから、量 を増やして、収入を増やすことが、最優先だと考えることです。
 日本をはじめ先進国で、量の増加イコール収入の増加が見込めるのは、あくまでも質の裏付けがあるからです。水道、井戸、ボトルといった供給源があれば、日常的には、簡便の度合いやトータルで低廉な方法を選択し、他は予備的に使われます。そして、井戸を使える資力があれば、量 はこれで確保したほうが安いのも現状でしょう。これに対抗して料金を安くすれば、適正な維持管理にも支障をきたし、質の確保が困難になることも少なくありません。
 電力でも、停電以上に過電流を避けなければならないように、水道でも、断水以上に安全な水質が優先されなければなりません。安全な水質が水道への依存度を高め、配管網の整備が漏水率を減らし、そして、何にもまして、給水装置によるチェックが適正な料金調定を実現して水道経営を可能にしていくうえで重要です。
 つまり、水道料金制度の妥当性を検討するためには、使用者の負担責任を論ずる前提条件として、安全かつ安定した給水が実現し、健全な経営が成り立っていることが必要だということになります。

2.事業運営のためのコストがまかなわれているか
 水道料金制度の妥当性をチェックするためには、まず、その水道サービス供給の対象を明確にしておく必要があります。通 常は、日本と同様に、公衆衛生の向上と生活環境の改善を目的に、一般市民を使用者として想定しています。この場合、一般 市民の現在と将来の需要に対して、水道サービスを供給するためのコストが、その水道の本来的なコストということになります。
 一般市民を対象にするということは、市民生活にとって最低限必要な水量とその供給施設を前提にすることを意味します。これ以上の量 や施設は、コストの面では追加投資が必要になりますから、必要最低限の供給対象とは区別 してコストを見積もる必要があります。たとえばビルや産業用にはさらに高いコストが必要ということになります。
 このように、事業体によって形と複雑さは違ってきますが、供給の対象別に必要なコストを見積もっているか否かをチェックしなければなりません。このコストの区分や見積もりが妥当か否かが第一のチェックポイントとなります。
 次に、コストには、大きく分けて運営経費と投資的経費があります。水道を供給するためには、このための施設を建設する費用があるはずで、この調達資金を償却する費用が投資的経費です。これには、現在の需要のために、過去に施設を拡充した分も含まれます。これに対し、施設を運転して水道を供給し、料金回収を含むサービスを行うための費用が運営経費です。
 漏水防止などの施設の維持管理費用は運営経費に含まれるものですが、これは、償却期間施設を利用し、場合によってはこれを長くし、有収率を向上させ、料金の低減化に役立つ重要なものです。
 これらの経費が、その時々の使用者の負担すべきコストとして妥当に見積もられているか否かが第二のチェックポイントです。
 一般市民を対象として、最低限必要な量を供給するために、これらのコストをまかなうための収入が基礎的な料金になります。
 同様に、これ以上の量や他の用途に対して供給するためのコストは、各別に区分した料金として見積もられなければなりません。
 このように、対象別に区分したコストに対応して妥当な料金が見積もられているか否かが第三のチェックポイントになります。
 なお、料金の水準と体系が、以上のようなコスト(原価)に基づき、公正妥当に設定されることは、使用者の支払い意思を促す意味でも大切です。

3.現状把握のうえに将来予測が十分できているか
 水道のような、継続供給を目的とし、市民生活に大きな影響を与える事業では、ある程度の期間、料金水準を一定に保つ必要があります。そのため、少なくとも数年間は、一定に保てるように努力する必要があります。また、現在の水道を使用できるのは過去からの蓄積があるからですし、将来も供給を続けていくためには、長期的な見通 しに基づいた着実な経営が必要です。
 需要を予測するということは、経済社会や市民生活の将来を見通し、水道の使用をシュミレーションすることですし、それをまかなう供給を確保していくためには、施設の拡張を含む必要な施策を進め、企業努力による供給効率の向上と経費の抑制を進めていくことになります。
 また、国によっては、他の水供給との競合的発展、エネルギー、通信、交通 など、他の社会的基盤型の産業との所得に対する影響度合いなども、比較検討する必要があるでしょう。
 つまり、文書化されているか否かを問わず、長期計画は必要不可欠ですから、これがどのようなものか、そして、これに基づいて、数年間の事業の見通 しはどのように見込まれているか、各年度の予算の方針はどうかといった、経営の方針と戦略を照らし合わせてみないと、料率が妥当か否かはチェックできません。
 そのうえで、施策内容が妥当であり、これに見合う料率であれば、妥当といえます。また、長期的には逆に、施策を拡大し料率も上げることが妥当な場合もありますし、さらには、施策のカットや企業努力で料率を下げたほうがよい場合もありえます。料金制度の妥当性をチェックするためにはここまで分析する必要があるのです。

【参考文献】
1)小松秀雄(小原隆吉監修):水道財政と料金:理論と実務,日本水道新聞社,1992.

(野津 博道)

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