受入れ事例:【青森県初の導入】
津軽弁が橋渡しに! 青森の特別養護老人ホームのケース

特別養護老人ホーム静和園【施設DATA】

  • 種別:特別養護老人ホーム
  • 所在地:青森県北津軽郡
  • 職員数:42名
  • 外国人介護職員:女性3名
    • 出身国:ベトナム
    • 在留資格:特定技能
    • 日本語能力試験:N3: 2名/N4: 1名

「特別養護老人ホーム静和園」を運営する社会福祉法人奥津軽会は、同施設を含め、中泊町内で4施設を運営。20年4月にベトナム人女性2人、同年10月に同じくベトナム人女性1人が入職した。介護職に就く前は3人とも同じ日本語学校に留学していた。

 

うちのような田舎の施設に、外国人の方は魅力を感じてくれるだろうか?

華やかな都市部を希望する外国人介護職員も多いだけに、不安を感じる採用担当の方もいらっしゃるかもしれません。

青森県の介護施設で初めて「特定技能」制度を利用してベトナム人女性3人を受け入れた特別養護老人ホーム「静和園」は、田んぼと日本海に囲まれたのどかな町にある中規模の施設です。

都市部より職員確保が難しいとされる地域ですが、園長の今忠(こん・ただし)さんは、都会と遜色のない待遇ときめ細やかなサポートによって、今後さらに3人の外国人介護職員の受け入れが決まったと話します。

地方の介護施設、さらに外国人介護職員の受け入れが初めて、という施設の方は必見のインタビューです。

(取材日:2020年11月16日/取材:国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

 

〈この記事のポイント〉

  • 寮完備、送迎の実施といったきめ細やかなケアと都市部に匹敵する賃金で、田舎への抵抗感を払拭できるように努力。
  • 外国人介護職員と施設の双方を親身になって見守ってくれる登録支援機関を選定すること。
  • 外国人職員と日本人職員が信頼関係を築けるよう、互いの文化を理解し合う努力を。

 

 施設担当者インタビュー

●答えてくれる人
社会福祉法人 奥津軽会 特別養護老人ホーム 静和園 園長 今忠(こん・ただし)さん。1957年生まれ。役場職員を経て、2017年から静和園の園長に。

 

はじめは「介護の仕事を外国人ができるのか」と懐疑的だった

――外国人介護職員の採用を考えたきっかけを教えて下さい。

今忠さん(以降、今) わたしはもともと福祉の素人だったのですが、働いてくれている介護職員の年齢も高齢化が進んでいて、このままいくと数年後には運営が危機的状況になることはわかっていました。ですから新しい職員を確保しようと募集をかけましたが、若い方が全然、集まらなかったんです。そんなとき、古くからの知人がたまたま登録支援機関を運営しており、「特定技能」制度のことを教えてくれました。

ただ正直、最初は抵抗感がありましたね。まず日本人ではなくなぜ外国人なのか、職員や入所者さんに説明しないといけません。その上、彼らは本当に介護の仕事ができるのかまったくわかりませんでしたから、とても不安でした。

しかしその後、「技能実習生」として介護職員をしている方と接することがあったんです。その方々の熱意や向上心が素晴らしく、「これなら特定技能の子も大丈夫だ」と思えるようになり、不安を払拭できました。

 

登録支援機関は「人材を派遣する」だけではダメ

――登録支援機関の決め手はなんでしたか。

今 実際にお願いした機関が知り合いだったということもあり、他の登録支援機関と見比べることもありませんでしたが、最初から担当者の方が親身になって毎日のように施設に足を運んでくれて相談ができたので、ずっと安心していられました。ですから手続き上で困ったことはほとんどありませんでした。ただ「人材を紹介すればいい」と思っているような登録支援機関では、このようにうまくいかなかったのではないでしょうか。

 

――特定技能制度を使った外国人介護職員の受け入れを行う際の留意点はなんですか。

今 うちの施設では今3人のベトナム人女性に来てもらっているのですが、そのうちの一人の方が以前、携帯電話料金を滞納したことがあったようで、電話が使えなくなってしまうことがありました。後日、仕組みをきちんと説明して事なきを得ましたが、各種支払物の未納がないかどうかは、確認したほうがいいでしょう。

また、特定技能の就労ビザは申請後、発給までに一ヶ月以上時間がかかりました。外国人介護職員の方が“待ち”の間の住まいをどうするかも、確認が必要です。うちでは寮を用意しました。

 

「めごいな〜(かわいいなあ)」入職半年で施設のムードメーカーに

――現在、3人のベトナム人女性が働いているということですが、仕事ぶりはいかがですか。

食事介助をするホティ・タオさん

今 食事、排泄、入浴などの日常生活における介護業務をお願いしていますが、もう本当によくやってくれています。働き出したのは2020年5月からなのでまだ半年ほどですが成長が目覚しく、皆20代前半と若いからか、吸収が早い早い(笑)。ですので、一年経った頃には日本人職員と同じように夜勤も任せたいと思っています。

コロナ禍で常にマスクをしていて息苦しいと思うんですが、暑くて大変な入浴介助も率先してやるんです。そんな一生懸命な姿を評価して、実はもう昇給しました。それくらい、彼女たちを高く評価しています。

職員や入所者さんもみんな「老人ホームが明るくなった」と、彼女たちの存在を喜んでいます。津軽弁に苦労していると思うのですが、「わいはーどんだば(=びっくりする)」と方言を使いこなして、みんなを笑わせていますよ。人懐っこいものですから、入所者さんも「めごいな〜(=かわいいなあ)」と、彼女たちが大好きになっています(笑)。

 

都市部と変わらぬ賃金、寮完備、車での送迎…地方でも来たくなる“強み”を作る

――外国人介護職員の方が働きやすい環境づくりとして、どんなことを心がけていますか。

今 彼女たちは遠いところからやって来て、非常に不安だと思います。実際、ときどきホームシックになって「家に帰りたい」とこぼすこともありました。そんなときには職員たちと一緒にご飯に連れて行ったり、遊びに連れて行ってリフレッシュしてもらえるようにしています。先日も職員と一緒に紅葉狩りをしましたよ。

また、寮から職場までは車で5分ほどかかるので、行き帰りの送迎も行っています。その他に週一回の買い物にも車を出しています。

 

――地方は職員が集まりにくいとよく伺いますが、どのように施設の魅力をアピールされたのでしょうか。

今 まずは都市部と遜色ない給料を提示することでしょう。あとは先ほども言いましたようにうちは寮を完備しましたので、家賃はかかりません。ですから月々の出費としては携帯電話料金と電気代くらいなもので、田舎で使う場所も限られていますから、貯金にはうってつけだと思います(笑)。

実際、彼女たちと面接したときも、「家賃がかからないならそれが最高だ」と言っていました。

 

――特定技能制度を使って外国人介護職員の受け入れを検討している施設にアドバイスをお願いします。

今 重複してしまいますが、まずは信頼できる登録支援機関を選ぶことです。そうすることで、自分の施設の実態とマッチした方を見極めてもらえるはずです。

その後、実際に現場で外国人の方が活躍するようになったら、日本人職員との信頼関係をいかに構築するかが大切です。もはや孫のようにかわいがっておりますが(笑)、かといって特別扱いはしません。日本で生活して働くのであれば、こちらの文化や習慣をきちんと身につけてほしいと思っています。一方で我々も、彼女たちの育ってきた環境を考慮し、学ぶ必要もあるでしょうか。ですから仕事だけでなく、公私にわたって包括的に関わっていくことも心がけるといいのではないでしょうか。

 

 

外国人介護職員インタビュー

●答えてくれる人
マイン・ティ・クィンさん(21歳/左)、トラン・ティ・クエンさん(22歳/中央)、ホティ・タオさん(22歳/右)。
3人は2018年に来日。2020年5月の入職までは、栃木にある同じ日本語学校に通っていた。

 

最初は津軽弁がわからなくて大変でした(クエンさん)

――日本で働きたいと思った理由はなんですか。

トラン・ティ・クエンさん

ホティ・タオさん(以降、タオ) 日本のアニメや音楽が好きで、日本食も食べたかったし、桜も見たかった。日本文化をもっと知りたかったんです。

トラン・ティ・クエンさん(以降、クエン) 日本には仕事のチャンスがたくさんあり、経済的な豊かさもありますよね。だからまずはお金を稼ぎたいと思いました。

マイン・ティ・クィンさん(以降、クィン) 最初は日本で働く気はありませんでした。なぜかというと、子どもの頃からずっと家族のお世話をするのが当たり前になっていたからです。でもしだいに「自立したい」と思うようになり、日本への留学を決めました。

 

――なぜ介護の仕事に就こうと思ったのですか。

クィン 今は会うことができませんが、うちのおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだったので、介護の仕事を選びました。入所者さんと話していると、自分のおじいちゃんおばあちゃんのように思えて嬉しいです。

クエン 介護職は賃金が安定しており、さらに高齢者を助けることができ、健康について学ぶことができるからです。

 

――普段どのような業務をしていますか。

タオ 3人とも同じ仕事をしていて、ベッドメイキングや食事介助、口腔ケア、入浴介助、排泄介助、レクリエーションなどです。

 

――仕事や生活で大変なことはどんなことですか。

クエン 津軽弁です。はじめは全然わからなかった(笑)。

タオ 栃木の日本語学校時代に習った言葉とはぜんぜん違うので、わからないときは周りに聞くようにしています。

クィン 冬は、本当に寒いです。寒くて大変です。

 

休みの日に職員さんと遊びに行くことがなによりの楽しみ(クィンさん)

――反対に、日本の生活で楽しいことを教えて下さい。

マイン・ティ・クィンさん

クィン 今一番楽しみなことは、一緒に働く友だちと職員さんたちと遊びに行くことです。休みの日に色々なところへ連れて行ってもらい、食事をしています。食べ物がおいしくて安いので、食べすぎて太ってしまいました。

タオ 一昨日は職員のみんなで花火も見ました。

 

――日本語の勉強はどうしていますか。

クィン 私にとっては映画やアニメが教科書です。『あたしンち』と『ちびまる子ちゃん』が好きで、食事をしながらいつも見ています。ベトナムではどちらも人気で、今はもっといろんな日本のアニメが見られるみたいです。早く『鬼滅の刃』も見たい!

 

――日本に来たいと思っている外国人の方にアドバイスをお願いします。

タオ 私は介護福祉士の資格を取って日本で働いていきたいと思っています。今も仕事は楽しいし、入所者さんから「ありがとう」と感謝されるととても嬉しいです。皆、ぜひ日本に来てほしいですね。

クィン まず日本語をよく勉強して、たくさん日本のことを調べてください。自分はなにが好きかをよく考えた上で仕事を選び、就業予定先の会社のこともきちんと調べるようにしてください。

 

 

取材後記

施設のみなさんが、3人のベトナム人女性をまるで本当のこども(または孫)のようにかわいがり、大切にされていることが伝わってきました。それが彼女たちにも伝わっているようで、休日に職員のみんなと遊ぶことを楽しみにしているということでした。

こういった信頼関係を築けるのも、きめ細やかなサポートと、都市部に引けを取らない待遇を施設側が用意しているからではないでしょうか。

また、静和園のある中泊町は青森県の北部に位置し、方言もより強い地方だそう。高齢者たちと接することでそんな津軽弁を体得し、見事に使いこなしている彼女たちが、地域文化の担い手になっている、という事実もとても興味深かったです。

(国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

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