受入れ事例:【看護師を目指す介護職員】
看護×介護の両輪が成功した神奈川県郊外の認知症病院のケース

医療法人社団やすらぎ会 神奈川中央病院【施設DATA】

  • 種別:精神科病院(認知症治療病院) ホームページ
  • 所在地:神奈川県厚木市
  • 職員数:70名
    • 外国人介護職員:女性3名
    • 出身国:中国
    • 在留資格:特定技能
    • 日本語能力試験:N1

4年前にできたばかりの、認知症治療を行う神科病院。2020年5月から中国人女性3人を採用し、「看護助手」という立ち位置で活躍してもらっている。彼女たちは日本で看護師になるために来日しており、入職前は日本語学校に通っていた。

 

仕事の吸収の早さに驚いています。正直、日本人職員にとっても良い刺激になっていますね!

20年5月にはじめて「特定技能」制度を使い、中国人女性3人の介護職員を受け入れた神奈川中央病院の志村直紀さんは語ります。

4年前にできたばかりの病院で、志村さん自身も他業種から転職してはじめての採用活動。特定技能制度についても「まったく知らなかった」という“未知”の部分ばかりだったそうですが、「間違いなく当院にとってプラスになりました。今後も特定技能制度を使って外国人の方を受け入れていきたい」と話します。

はじめてだらけのチャレンジがなぜうまくいったのか? 秘訣をお聞きました。

(取材日:2020年11月17日/取材:国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

 

〈この記事のポイント〉

  • 実際に外国人の方と会ったことでコミュニケーションに対する不安がなくなり、採用に踏み切るきっかけになった。
  • 料金やサポート内容が不明確な登録支援機関は避け、手厚い支援をきちんと受けられる機関を直接確認する。
  • 外国人の方は仕事への意識が高い。雇用側も彼・彼女たちの夢を共有し、Win-Winの関係を築く。

 

 施設担当者インタビュー

●答えてくれる人
医療法人社団やすらぎ会 神奈川中央病院 総務課長 志村直紀さん
1981年生まれ。データマーケティングなどを経て2020年から同職。

 

コミュニケーションの問題がネックになっていた

――外国人介護職員の採用を考えたきっかけを教えて下さい。

志村直紀さん(以降、志村) わたしどもの施設は認知症治療を行う精神病院です。4年前にできたばかりの新しい病院かつ、わたし自身も他業種から赴任したばかりのなか、すぐに採用を担当することになり、バタバタと求人を出したのですが、介護・看護業界的に人手不足ということもあり、うまく人が集まりませんでした。

同じ頃、取引先の方に雇用の悩みを話したところ、「特定技能」制度の話を聞きました。そのときはじめて、「外国の方」という選択肢が自分のなかに出てきたんです。

 

――はじめての採用活動で、「特定技能」制度を使うことに不安はありませんでしたか。

志村 制度といいますか、外国の方とコミュニケーションが取れるのか、という不安がありました。僕も職員も英語を流暢に話せませんし、翻訳アプリの使用も考えましたが、看護や介護業務が煩雑になりすぎては現実味に欠けてしまう……と、本当に悩みの種でした。

ただ、語学学校の関係者の方に日本語能力試験でもっとも高難度の「N1」を取得している生徒さんをご紹介いただけることになり、「ならば一度お会いしてから考えてみよう」となったんです。わたしはプライベートでも外国の方とあまり接点がなかったものですから、肌合わせからスタートするような気持ちでした。

実際にお会いすると、想像以上に意思疎通をはかることができ、私の悩みは杞憂に終わりました。このときにお話した3人の中国人女性が、今まさにうちで働いてくれています。しかも彼女たちは母国・中国で看護資格を保有していることもあり、まさに即戦力となってくれる人材でした。

 

金額や内容が不透明な登録支援機関は要注意

――高い日本語能力と看護スキルを兼ね備えた、病院にぴったりの職員を採用できたのはなぜでしょうか。

志村 これはもう本当にたまたま、タイミングが良かったんです。先ほどお話しした語学学校の方に「うちは病院なんですが人手が足りなくて」と、はじめからこちらの状況を説明していたことで、「ちょうど日本の看護師免許を取るために留学している生徒さんがいますよ」とご紹介いただけたんです。

 

――登録支援機関はどのように選びましたか。

志村 最初はビザの取得も独学でやろうと思ったんです。でも、もし私が出した書類に不備があったせいで審査が通らないようなことがあったら彼女たちにあまりに申し訳ないと思い、委託しようと思い直しました。

ただ、インターネットで調べても料金体系やサポート内容が不透明なところが多く、疑問を感じてしまって。そこでまた語学学校の方に相談して、お付き合いのある登録支援機関をご紹介いただきました。

そこの方は面倒見がよくて、例えて言うなら「近所のおばちゃん」のような感じで(笑)。ビザの取得から引っ越し、書類申請のための市役所まわり、銀行口座の開設など、あらゆる生活のベースを一緒になって整えてくれました。

プライベートで彼女たちを食事に連れて行ったりしてくれているようで、外国の方が不安になったときの相談役として活躍していただいています。そういった手厚いサポートが、登録支援機関としての決め手になりましたね。

このようなご尽力もあり、わたし自身が苦労した点というのはほとんどないんですが、唯一気にかけたことは、外国人の方が全員女性だったので、住まいについては街灯のある明るい場所で、セキュリティ対策がしっかりしているところを探すようにしました。

 

彼女たちの夢をバックアップすることが、施設のためになる

――現在働いている3人の中国人女性の仕事ぶりはいかがですか。

志村 彼女たちは全員、本国で看護師免許を持っており、今は日本の看護国家試験合格に向けて勉強中です。そのため仕事内容としては、看護助手として、患者さまの身の回りのケアと介護(介助)をお願いしています。

彼女たちはみんな非常に意欲的で、ハングリー精神がある。ひとつでも新しい技術・知識を習得したいという気持ちに溢れているので、その気迫に日本人職員が煽られるほどです。

こちらがひとつ留意している点としては、先ほども申し上げたとおり、彼女たちが日本に来た目的はあくまで、「日本で看護師になるため」。ですから、まずは来年の国家試験に合格してもらうことを第一にした勤務体制を職員全体で共有しています。

具体的には、夜勤業務からは外して勉強の時間を確保することと、仕事内容も、看護国家試験のためにしている勉強と現場の業務内容に齟齬がでないよう、“合格に近い動き”を極力、先輩の看護師にもお願いしています。

 

――志村さんのお話をお聞きしていると、「会社」目線ではなく、「職員」目線で働きやすい環境づくりを推進されていることがわかります。

志村 本来でしたらもっと経営よりの観点を持ったほうがいいのかもしれませんね。しかし、我々は満足にいかない雇用情勢という問題を抱えていて、彼女たちは夢のために今、日本での就労を望んでいる。つまりその一点で、我々の需要と供給が合致しているんですよね。

なので、我々としては外国の方の夢をバックアップさせてもらいながら、彼女たちには当院の人手不足を補ってもらう、というちょうどいいバランスで走っているというところです。

看護国家試験に合格した後は在留資格を「特定技能」から「医療」に切り替え、当院で看護師として活躍していただきたいと思っています。うちで新人看護師として下積みをしてもらったあとは、彼女たちが希望する診療科や病院でどんどん、ご自分たちの道を進んでいけばいいのかなと考えています。

 

――特定技能制度を使って外国人介護職員の受け入れを検討している施設にアドバイスをお願いします。

志村 外国人雇用に対して抵抗のある方もいるかと思いますが、一度、彼・彼女たちと目線を合わせて話してみてはいかがでしょう。正直、日本人との差がないばかりか、偏見が邪魔になるほど素直でいい方たちが多い、というのが私の実感です。来日する理由はさまざまでも、介護(介助)などの仕事に対する意識は高く、私たちが刺激を受けています。

また、入職に際して適切な手順・申請の仕方などがあります。不安な場合には登録支援機関に相談し、足並みを揃えて進捗されることをおすすめします。

 

外国人介護職員インタビュー

●答えてくれる人
トウ・ヒさん(25歳/左)、オン・ビクンさん(25歳/中央)、リク・ケントウさん(26歳/右)。
3人は2018年7月に来日した。トウ・ヒさんとオン・ビクンさんは看護専門学校を卒業後に渡日。リク・ケントウさんは中国の総合病院で勤務経験もある。

 

漢字で書くとだいたい意味が通じます(トウ・ヒさん)

――日本で働きたいと思った理由はなんですか。

トウ・ヒさん

トウ・ヒさん(以降、トウ) 子どもの頃から『犬夜叉』や『NARUTO』といった日本のアニメが好きで、日本に来たいと思っていました。今は『呪術廻戦』にハマっています(笑)。

オン・ビクンさん(以降、オン) 日本語も中国語もできると、今後の就職や仕事の選択肢が広がると思い、日本に来ました。

リク・ケントウさん(以降、リク) 日本の福祉制度は世界的に有名で、看護・介護サービスは中国でお手本とされてきました。そんな日本の看護技術を学びたいと思い、来日しました。

 

――日本の高齢者介護の現場に触れてみてどう思いますか。

リク 患者さんとのコミュニケーションがとても勉強になります。

トウ 中国もこれから高齢化社会が進んでいく中で、中国より日本のほうが福祉制度の蓄積があるので、勉強できると思っています。

 

――認知症の患者さんのケアを担当されていらっしゃるということですが、お仕事はいかがですか。

オン・ビクンさん

オン 食事や着替え、入浴介助といった生活援助の業務を担当しています。

リク 職員さんとのコミュニケーションはだいたい大丈夫ですが、患者さんとの会話は……。

オン 関西ご出身の患者さんがいるのですが、関西弁だと難しいですね。

トウ でもわからないときでも、漢字で書くとだいたい、意思疎通がはかれます。あと患者さんは認知症なので、忘れっぽい方もいて、トイレに連れて行った直後に「また行きたい」と言われたり、食事の後に「ご飯はまだ?」とか言われることもあります。そういうときは、食べ汚しのついたエプロンを証拠として見せて「ほら、今食べましたよ」と伝えるようにしています。

 

つらいことは、本格的な中華が食べられないこと!(笑)

――では、どんなときに仕事のやりがいや喜びを感じますか?

オン 「かわいいなあ。頑張ってね」と患者さんに言われたときは嬉しかったです。また、なにかお手伝いしたときに「幸せだな」と言ってもらえたこともありました。

リク たしかに、患者さんが笑顔になると心が温かくなりますね。

トウ 患者さんの中には、ときどき、「家に帰りたい」と言う患者さんもいます。ですからそういった方の退院が決まるととても嬉しいです。あ、あと施設の人にしてもらって嬉しいことは、よくお菓子をくれること(笑)。

オン 職員の方は本当にみんな優しくて、わからないことだらけだった最初は特にたくさん、助けてもらいました。

リク 職員の方に日本の食文化を教えてもらうこともありますね。逆に私たちは中国料理のレシピを教えてあげています。

 

――日本の生活で苦労されていることや大変なことはありますか。

3人 本格的な中国料理が食べられないこと!(笑)

リク 特にトウ・ヒさんは辛い中華が大好きなんですけど、なかなか香辛料も手に入らないらしくて。

トウ 横浜中華街に行けばあると思うけど遠いしね……。なかなかご飯が本場の味にならなくて悲しいです(笑)。

 

リク・ケントウさん

――今後の夢を教えて下さい。

リク まずは2月に控えた看護師国家試験に合格して、みんなで箱根温泉で合格祝いをしたいですね。そして優秀な看護師になりたいです。

オン 箱根は有名ですよね。私は看護国家試験に合格したら、ゆくゆくは産婦人科での経験も積みたいと思っています。

 

取材後記

看護師になることを目標にやって来た3人の中国人女性たちが1号介護特定技能制度を活用し、病院での就労経験を通じて日本の介護技術を学べる点に、本制度の多様性を感じました。

登録支援機関の選定に関しては、しっかりとした料金体系を確認した上で、外国人職員にとって面倒見がよく、相談役になれる登録支援機関を選ぶことが、施設側・外国人側双方にとっても最重要ポイントと言えるでしょう。

また、「高いモチベーションを持って働く彼・彼女たちの夢を共有し、Win-Winの関係を築く」という受入れ側の採用方針は、長い目で見た時、個人間を超えた国と国との良好な絆が作られる素地になるような気がしました。

(国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

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