【地域での定着に向けて】外国人職員の困りごとに一つひとつ向き合う、滋賀県の特別養護老人ホームのケース

2023年10月13日

<strong>施設DATA</strong>

社会福祉法人ゆたか会 特別養護老人ホーム 清風荘 WEBサイト

  • 施設種別:特別養護老人ホーム
  • 所在地:滋賀県高島市
  • 事業所内の外国人職員:特定技能外国人を11名(ベトナム・中国・ミャンマー)、留学生を2名(比)、永住者を1名(ブラジル)、介護福祉士資格取得者を1名(ベトナム)

社会福祉法人ゆたか会は、滋賀県の琵琶湖の西側に位置する高島市で、現在、特養・小規模多機能・居宅介護・ケアハウス・障害者支援施設・就労支援 などの事業を 展開しています(取材日現在)。
外国人職員の受入れについては、2019年に技能実習生の受入れを開始し、2021年6月より特定技能外国人の受入れへ移行されました。
特に生活にかかわる支援を重視されていて、生活面の支援が現場での円滑な就労や地域への定着にもつながっているというお話もありました。今後の課題は、外国人職員の人数が増加する中での指導体制や、緊急時の対応等をどこまで任せるか、そして介護福祉士国家試験対策に関する支援とのこと。
外国人職員の困りごとに一つひとつ向き合い取り組まれてきたこれまでの支援内容と、今後の課題を取材しました。

※取材日:2022年10月27日

目次

  1. Pick up
  2. 施設担当者インタビュー(法人事務局長兼センター長、施設長、法人研修課長)
  3. 特定技能外国人職員インタビュー(フウさん(中国)、ガンさん(ベトナム)、ザーさん(ミャンマー))

 

– Pick Up –

“地域を気に入って長くこの地域にいてくれたらという思いから、地域観光や文化の紹介等を実施。”

“業務以外で関わる生活支援担当の事務員をおくことで、業務の悩みも相談しやすい環境に。”

“実務者研修を受入機関内で開講。現場の指導者が講師をすることで、フォローしやすい体制に。”

施設担当者インタビュー

〈インタビューを受けてくださった方〉

  • 法人事務局長兼センター長 水野様
  • 特別養護老人ホーム清風荘 施設長 山川様
  • 法人研修課長 林様

 

◆まずは外国人職員の困りごとをしっかり受け止めて、法人でできることは行い、登録支援機関にお任せしたほうが良いことであれば任せる

Q:受入れ体制を教えてください。

水野様(以下、敬称略):もともと技能実習生からの受入れスタートで、実習責任者は施設長、指導者は研修課長、生活支援員については事務員で、外国人職員の受入れ全般の責任者が私という体制を敷いていました。特定技能に移行してもこの体制を踏襲して支援をしています。この技能実習の受入れの体制はバランスが良いと思っているので、基本的に、この形が主軸で良いと思っています。

Q:登録支援機関を選ぶときに重視されたことや支援の棲み分けを教えてください。

水野:県内での支援実績と営業担当者のお人柄、フィーリング等でしょうか。担当者のフットワークが軽く、こちらの要望になるべく応えようとしてくださるので、そういう姿勢を示していただけると、逆に法人でできるところは頑張ろうとなり、良い関係が築けていると思っています。

登録支援機関と法人との支援の棲み分けは特段ありませんが、登録支援機関に任せきりにせず、法人で出来ることはやっていく考えです。外国人職員の立場にたってみると、「それは登録支援機関に任せてあるから」という姿勢では信頼関係が築けないと思うので、まずは外国人職員の困りごとについては法人でしっかり受け止めて、法人でできることは行い、登録支援機関にお任せしたほうが良いことであればお任せする形で、連絡を取り合い調整しています。一人ひとりの困りごとを法人で把握することで、できることは改善できるだろうとも思っています。

 

◆地域を気に入ってもらい、そのことで長くこの地域にいようと思ってもらえたらという思いから、地域の観光や地域文化の体験に一緒に行ったり、遠出をして気晴らしをしたりしてきた。

Q:生活面で、支援をされていることがあれば教えてください。

水野:まずは住まいの支援から始めました。できるだけ不自由なく生活をスタートできるように、お皿・お箸など、最低限のものは法人で準備をしています。また、食材も一週間程度のものは一緒に近くのスーパーへ買いに行き、「この店はこれが安いよ」「ここにはこんなお店がありますよ」と、この地域について分かってもらうところからスタートしました。あとは、働いていく中で体調を崩したりしたときには、その都度、「ここの病院に行ってみようか」と支援をしています。

また、この地域を気に入ってもらえたら長くこの地域にいようと思ってもらえるかなとも思うので、休みの日にはなるべく地域の観光や地域の文化を体験できるようなところに一緒に行ったり、紹介をしたり、たまには少し遠出をして気晴らしをしたりもしてきました。栗拾い、そば打ち、スキーや琵琶湖でサップをしたり色々なことをしました。

 

◆業務以外で関わる生活支援担当の事務員をおくことで、業務の悩みも相談しやすい環境に。

Q:生活支援が、業務の悩みを相談できる環境づくりにもつながっていると聞きましたが。

山川様(以下、敬称略):先日、ある特定技能の職員が、「一緒に働く職員さんの言っていることが早口でわからない。でももう一回言ってくださいが言えないので、わかりましたと言ってしまう」という悩みを、生活支援を担当する事務職に打ち明けてくれたようです。

現場の業務以外で関わる職員がいれば、困ったことがあれば相談してくれるでしょうし、そしてそれをまた現場に返すことができると思っています。先ほどの話だと、現場の職員からしたら「わかりました」と言っているので、「わかっているのになんでできないの?」となっていたようなのですが、この話を受けて、早口の職員には、「もう少しゆっくり話してあげてね」と返すことができます。

生活支援を行う職員は普段から病院受診に付き添ったり、お部屋も確認しに行ったりしていて、関係性ができて話をしてくれるようになったようです。関係性ができないと思っていることを言ってくれないと思うので、現場以外の離れたところの職員との関係性も大切だと思っています。

Q:受入れ後は、どのような指導をされたのでしょうか?

林課長:最初の受入れの際、講義とマニュアルをもとにした介護技術の指導を行ったところ、それが意外とうまくいきました。具体的には、初任者研修の内容をベースにお伝えし、講義の後、会議室にベッド等を降ろしてきてお互いがモデルになりながら体験を通して学んでもらいました。その後、一緒に現場に入って、利用者の方の情報を共有しながら指導を行い、外国人職員が自分でできる部分を増やしていきました。上手に身体をつかってトランスファーなどをされるので、日本人職員と比較しても覚えるという面は遜色ない印象でした。

 

◆実務者研修を受入機関内で開講。現場の指導者が講師をすることで、フォローしやすい体制に。

Q:日本語の学習面で支援をされてきたことはありますか?

水野:当初は地域の国際協会と契約をし、日本語教師に来てもらい、週一回、勤務時間内に法人の会議室で日本語教室を開催していました。どちらかというとN2、N1を目指すための学習をしていて、法人からすると、N2、N1に合格することよりもコミュニケーション能力が高い方が良いので、今は日本語教室の開催はしていません。しっかり生の会話を増やす方が大切かなと思っています。

また、当初は中国人のみを受け入れていて中国語が飛び交っていましたが、今は多国籍の受入れをしているので共通語が日本語となり、外国語で話す場面が少なくなってきました。この点は1か国に限定しなくて良かった点だと思います。

Q:介護福祉士国家試験の受験に向けて、支援をされていることはありますか?

水野:実務者研修を法人内で実施していますが、法人職員が講師をしており、受講者の進捗状況や理解度がわかるのでサポートがしやすいようです。実際の国家試験対策はこれからですので、そこにどれだけの支援ができるかは、今後手探りでやっていくことになると思います。

 

◆今後の課題は、中堅クラスになり判断や緊急時対応が求められる際に、どこまで対応をしてもらうか

Q:今後の課題があれば教えてください。

林:今は特定技能外国人の方々も新人という位置づけですが、2~3年目となり中堅クラスになると、判断をしたり、緊急時の対応として何かしらの動きをしたりする必要が出てきます。その際、どこまでを対応してもらうかは、正直、今悩んでいます。

例えば、今は夜勤等も組み合わせを考えながら勤務表を作っていますが、先々、外国人職員の中から緊急時の対応などを任せられる人が出てくると、普通の職員という感覚で勤務表も作れるし、何かあっても任せられるという本当の安心感に繋がってきます。今、業務ベースでは任せていて安心感はありますが、どうしても判断や緊急時の行動という部分に少しだけ不安を感じているところがあります。そこをクリアできると、一層同じ職員というような安心感が持てて良いのかなと思っています。

Q:外国人職員へ期待されていることを教えてください。

山川:外国人職員の皆さんが長くいたいと言ってくれるので、3年の実務経験を積んで介護福祉士の資格をとって、長くここで働いていただきたいと思います。また、リーダー的な存在にもなっていただきたいです。今は日本人職員がグループリーダーをしていますが、外国人職員だからリーダーができないということはないので、外国人職員にも役割を担ってほしいです。誰かひとりでもリーダーになる方が出てくれると、他の方々ももっと頑張ろうという気持ちになってもらえるのではと思うので、中核的な人材が育ち、長く日本で、ここで働いていただきたいなと思います。

外国人介護職員インタビュー

〈インタビューを受けてくださった方〉

フウさん

出身国:中華人民共和国
母国では大学で看護を学ぶ。
2019年6月に介護技能実習生として来日。社会福祉法人ゆたか会で技能実習2号を修了し、特定技能1号へ在留資格を変更。
取材をした2022年10月27日では、事業所での勤続3年4か月。

◆国家試験対策は、テキストを一通り読んだあと、過去問で間違えた箇所をYouTubeで勉強しました。

Q:介護の仕事で好きなところはありますか?

喫茶のときです。食堂で利用者のみなさんと一緒に喋りながら、利用者さんがコーヒーを飲んだりケーキを食べたりしていると、自分のおばあさん、おじいさんを見ている感じがします。私が小さい頃、両親は遠いところで仕事して、おばあさんにお世話をしてもらったので。

Q:介護福祉士を受験する予定はありますか?

1月に介護福祉士国家試験を受けて、次の7月にN1を受けます。前、会社から介護福祉士の勉強をするための本をもらい、大体読みました。今は、インターネットで介護福祉士の過去問集を買って、自分でやって、間違ったところはYouTubeの無料レッスンを観て、重要な点のメモを書きます。しばらくは、こんな感じでやっています。

Q:施設がしてくれたサポートで、どんなことが嬉しかったですか?

来日したとき、私たちはまだ日本語があまり上手ではなかったので、事務所の人たちが私たちを連れて、「この辺の道はどこに通じる」「スーパーはどこにある」と、いろいろなところを案内してくれました。

あと初めて来たとき、寮の冷蔵庫にも、食べ物とか水を用意してくれていて、びっくりしましたし、安心しました。

誰かが病気になったら、会社に報告してすぐにお薬を貰うことができます。体調不良になったときも、食べ物を買ってくれて、「これは会社の気持ち」と言われました。本当に家族みたいで、だからここにいたら寂しくないなと感じます。

※フウさんは、本取材のあと、2023年1月に介護福祉士国家試験を受験し、合格をされたとのことです。おめでとうございます!

 


ガンさん

出身国:ベトナム
2018年7月に来日し、他分野(水産加工)の技能実習生として鳥取県で実習。
2号修了後、2021年7月より介護分野の特定技能に在留資格を変更。
取材をした2022年10月27日では、事業所での勤続約1年3か月。

 

◆プライベートも充実。施設長の畑を借りて、ベトナムの野菜も植えています。

Q:どうやって仕事を覚えましたか?

利用者さんの名前と顔を覚えて、その利用者さんにどんな病気があって、何を食べられるかなどをきちんと覚えないと危ないので、最初はそこがすごく難しかったです。

最初、施設からノートをもらい、毎日何をしたかを記録して、2か月くらいで仕事を全部覚えました。日記みたいに、毎日何をしたか、誰の介護をしてどんなことがあったのかを全部書いて、上の人に見てもらいました。分からないことがあったら、直接聞きました。

Q:今も難しいなと思う業務はありますか?

まだ難しいことは、申し送りと看取りです。看取りはまだ研修をしてないから難しいと思います。申し送りは、専門の言葉、薬の名前、病気の名前などを全部聞き取って、終わったらまた他の職員に伝えます。その伝えることが難しいと思います。スピードはあまり速く感じませんが、薬とかをきちんと覚えて伝えないと事故になると思いますから。

Q:生活やお休みのことを教えてください。

ベトナム人の同僚と2人で会社の寮に住んでいます。施設から自転車で10分くらいです。
休みの日は近所のスーパーに行って料理を作ります。2~3日連休があれば、遠くへ遊びに行きます。
山川施設長から畑を借りて、ベトナムの野菜を植えました。空心菜とパクチーです。去年の夏はヘチマも植えました。

Q:今後の目標を教えてください。

12月にN1を受けます。その次は、介護福祉士の国家試験を受けたいと思います。介護福祉士に不合格だと日本に残れないと思います。合格したら、ここでずっと仕事ができます。だから頑張ります。
ここが好きですね。みんな最初からすごく優しく受け入れてもらったので、すごく好きです。

 


ザーさん

出身国:ミャンマー
2018年8月に来日し、他分野(電子機器組立て)の技能実習生として、滋賀県で実習。2号修了後、2021年8月より介護分野の特定技能に在留資格を変更。
取材をした2022年10月27日では、事業所での勤続約1年2か月。

 

◆困ったことがあると、無視をせず一緒に考えてくれて、ずっとここで働きたいです。

Q:介護の仕事を選んだ理由を教えてください。

ミャンマー人の中で介護の仕事が流行っているので、やってみたいなと思い選びました。ミャンマーにいる自分のおばあちゃんとおじいちゃんにも相談し、「良いことだ。頑張って」と勧めてくれたので、やってみようと思いました。

Q:介護の仕事で好きなところはありますか?

いっぱい話せるのが好きですね。日本人と好きなことを話せますし、日本語も少し上達したかなと思います。あとは介護の知識も少し増えました。看護師さんとかに、「それはどんな病気よ」「それしたら、こうなるよ」と教えてもらえるので。

Q:利用者さんの担当も任されていると聞きましたが。

私は2人の担当をしています。外国人職員はだいたいみんな2人くらいの利用者さんを担当していて、夜勤をやって慣れてから担当を任せてもらいます。担当の利用者さんの服を片づけたり、無いものは買ってほしいとケアマネジャーに伝えたり、自分の担当の方のことを全部します。あとは、3か月に1回くらい状況を紙に書いて、ケアマネジャーに伝えたりもします。「褥瘡はないか、肌は綺麗か」とか。

Q:利用者さんと話すときは、わからない言葉はありますか?

ありますね。そういうときは日本人の先輩に聞きます。
例えば『尿器』。私は最初『尿器』という言葉だけ知っていて、利用者さんが「シビンください」とおっしゃったことがあります。「え、シビンは何?」と思って先輩に聞くと、「尿器と一緒よ」と、教えてくれました。

Q:ここでずっと働きたいですか?

はい、ここで働きます。みんな大好きです。
何か困ったらすぐに言えるし、言ったことに対して無視されることがないです。困っていることを言ったら、どうしたらいいか一緒に考えてくれます。私だけでなく、外国人職員はみんな、そう思っていると思います。

(記事作成:国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

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