【専門性の高い介護職員へ】法人で初めて外国人職員が介護福祉士国家試験に合格した徳島県のケース

2025年3月27日

施設DATA

社会福祉法人愛心会 特別養護老人千歳苑 WEBサイト

  • 施設種別:特別養護老人ホーム
  • 所在地: 徳島県小松島市
  • 事業所内の外国人職員:計44名(2024年9月時点)
    • 特定技能(介護)…24名(ベトナム人6名、インドネシア人3名、フィリピン人3名、ミャンマー人11名、中国人1名)
    • 技能実習生…13名(インドネシア4名、ミャンマー9名)
    • 在留資格「介護」…1名(ミャンマー)
    • (介護職員以外)
      • 特定技能(外食業)…3名
      • 技術・人文知識・国際業務…2名
      • 永住者…1名

社会福祉法人愛心会は、徳島県で特別養護老人ホーム、グループホーム、デイサービス等の介護事業所を運営している法人です。
2019年8月より技能実習制度で外国人職員の受入れを開始し、現在は特定技能制度においても複数の事業所で積極的な受入れを行っています。
今回お話を伺った「特別養護老人ホーム千歳苑」では、外国人職員にも介護職員としての専門性を高めてもらいたいという思いから、介護福祉士国家試験の受験に関する支援を積極的に取り組まれています。
2023年度に法人で初めて外国人職員のTIN MAR WAIさん(ティンさん、国籍:ミャンマー)が介護福祉士国家試験に合格し、在留資格「介護」へ切り替えて就労されています。
ティンさんの普段のお仕事の様子のほか、介護福祉士国家試験に向けた学習や支援体制について、1本目の動画では法人のご担当者へ、2本目の動画では介護福祉士国家試験に合格したティンさんへお話を伺いましたのでご紹介いたします。

※取材日:2024年9月25日、26日

目次

  1. Pick up
  2. 担当者インタビュー ~法人ご担当者(施設長、介護主任)~
  3. 特定技能外国人職員インタビュー ~ティンさん(ミャンマー))~

 

– Pick Up –

“外国人・日本人に関わらず専門性の高い介護職員になってほしいという思いから、介護福祉士国家資格取得に向けて段階的な支援を実施”

“外国人の受入れ前に日本人職員へも声かけをすることで、事業所全体で団結。外国人職員へサポートをする風土ができた”

“外国人職員の力なくして介護の仕事は成り立たない。外国人職員の立場にたって受入れ当初から丁寧な支援を行い、日本人と外国人が隔てなく働けるようにしたい”

施設担当者インタビュー

〈インタビューを受けてくださった方〉

  • 施設長 桝田 貴仁 様
  • 介護主任 杉谷 峰子 様

 

Q1. 外国人職員への業務指導や生活支援について教えてください。

桝田様:外国人職員の受入れ開始当初は、事業所として具体的な制度や体制が確立していなかったのですが、支援が必要となったタイミングでその都度手探りで対応していました。法人としても、まだこれといったものが確立できていませんが、今後、少しずつ体制を整えていけたらと思っています。

杉谷様:業務面では、外国人職員の方には、入社後1週間は座学で勉強していただき、事業所で用意したテキストや、介護業務に役立つ専門用語、いろいろな身体の仕組みが載っているプリントを渡しています。フリガナは振らず、自分たちで調べ て勉強ができるように、「家に帰ってもノートに書いて勉強してね」と言っています。
実際の業務では、外国人職員1名につき、日本人職員が1名ずつ付き、1日の流れを覚えてもらっています。そこで介護技術や、仕事で分からないことなどを教えています。
生活面では、日本人職員が家で使わなくなったもの、例えばテーブルや食器の棚などがあれば外国人職員にプレゼントして、その他に足りないものがあれば、車でホームセンターへ行き、一緒に選びました。
病院は、初回受診は日本人職員と一緒に行くようにしています。2回目からは自分で行ってもらい、受診後は必ず結果を報告するようにお願いしています。

 

Q2. 外国人職員に対して、介護福祉士国家試験の受験の意思確認はいつごろ行いますか。

桝田様:「特別養護老人ホーム千歳苑」の方針としては、専門性を高めていただくために、日本人・外国人は関係なく、介護福祉士国家試験を受験してもらいたいと思っています。技術・知識を高めていくことがお世話をさせていただく利用者様への誠意だと考えていますので、採用面接の時から、「介護福祉士国家試験の受験の意思はありますか?」と尋ねています。

 

Q3. 事業所で実施している介護福祉士国家試験対策講座について教えてください。

桝田様:外部講師に来ていただいています。外国人も介護職員としての専門性を向上するために介護福祉士国家試験を受けてもらいたいので、日本人職員と同じ対策講座を受講してもらっています。毎年、多い時で5名ほど毎週の対策講座を受講しています。日本人職員も外国人職員も同じ環境で受講してもらい、外国人職員にはルビを振ったテキストを渡しています。

 

Q4.介護福祉士国家試験対策講座の頻度、時間や費用負担はどれくらいですか。

桝田様:週に1回、毎週木曜日に実施しています。1回あたりの授業時間は1時間半程度で、対面で行っています。対策講座にかかる費用は全額事業所で負担しており、業務時間外に実施しています。

 

Q5.教材など学習ツールはどのようなものを使用していますか。

桝田様:市販のテキストを使用しています。ティンさんは、介護福祉士国家試験の過去問等を自分で解き、不明な点があればその都度、対策講座の外部講師に聞いていたようです。外部講師以外にも、事業所の職員が随時質問を受け付けてフォローするように努力していました。

 

Q6.介護福祉士国家試験を受験するまでの学習計画について教えてください。

桝田様:ティンさんは、技能実習2号を修了して特定技能に変更した後、入職して4年目(特定技能として1年目)に初任者研修を受講し、5年目に実務者研修を受講していました。その後、介護福祉士国家試験の対策を行っていました。
介護福祉士国家試験は、3年以上の実務経験に加え、実務者研修を受講することで受験資格が得られますが、初任者研修から実務者研修へとステップアップすることでより理解度が深まると思い、初任者研修から受けてもらうようにしています。

 

Q7.初任者研修、実務者研修の外国人職員の理解度や、受講したことによりどのような効果がありましたか。

杉谷様:研修で勉強したことによって介護の意味を理解し、普段の業務でも行動が変わりました。ティンさんの介護のやり方や声かけの仕方が優しくなり、サービスに厚みが出ていると思います。

 

Q8. 実務者研修の費用負担について教えてください。

桝田様:事業所にて情報収集を行い、実務者研修の受講費用はハローワークの「教育訓練給付金制度」を利用しました。また、実務者研修では、オンライン授業のほかに大阪府での3日間のスクーリング授業もあり、大阪での宿泊の手配や送迎などは事業所で行いました。

 

Q9. 学習支援を行う中で生じた課題や、解決方法を教えてください。

杉谷様:学習に関しては、自分で勉強して分からないところや意味が理解できない時は、そこに丸をつけて必ず聞きに来てもらうようにし、私たちも分かりやすく説明するように心がけていました。
また、一回教えても、「はい、分かりました」と返事をする傾向にあったので、必ずもう一度確認して、理解できたかどうかをチェックしていました。ティンさん、事業所の日本人職員、対策講座の外部講師とのコミュニケーションが十分取れていたため、大きなトラブルはありませんでした。

 

Q10. 地域との関わりや、日本人職員との交流について教えてください。

杉谷様:ティンさんと日本人職員で、徳島県の脇町にある生け花の展示物を一緒に見に行きました。また、「お盆期間中に阿波踊りのお祭りがあるよ」とティンさんに伝えたところ、「同じ事業所で就労する他の特定技能の方と行きます」と言っていました。あとは、徳島県の観光名所である眉山にミャンマーゆかりの「パゴダ平和記念塔」があり、一緒に行ったのですが、それが本人にとって感動的だったようで喜んでくれました。
また、実務者研修のスクーリングで大阪に行った際は、観光を楽しんだようで、「施設長に通天閣や道頓堀に連れて行ってもらって、たこ焼きや串カツを食べた」と言って喜んでいました。

 

Q11.外国人職員の受入れにより、事業所で何か変化はありましたか。

杉谷様:ティンさんが大変勉強家で、声かけや認知症の方に対する接し方もよく勉強しているので、それを見て、私たち日本人職員も利用者の方に対する声かけの仕方を見直すなど、もっといろいろ勉強しないといけないという話が出ています。みんなの意識がとても高まっていると思います。

 

Q12.外国人職員へ支援を行うことに対して、日本人職員から不満などはありませんでしたか。

桝田様:外国人職員を受け入れることになったとき、最初から日本人職員には「自分の立場と置き換えて考えてみてほしい」と伝えていました。「自分が海外に行って、その土地の言葉を覚えて、国家試験を受験するのはなかなか厳しいことだろうから、みんなでフォローしていこうよ」と声かけをすると、職員間で一致団結するようになりました。日本人職員の不満や不公平などの声はあまりなく、みんなでティンさんが頑張っているのをサポートしよう、という風土作りができたように思っています。

 

Q13.外国人職員に対して、今後期待することを教えてください。

桝田様:これからも新しく外国人職員の方が来日してこられますので、その方々の指導をする立場になってもらえたらと期待しています。

 

Q14.特定技能外国人職員の受入れを検討している法人や、支援のあり方を模索している受入法人に向けてメッセージをお願いします。

桝田様:自分に置き換えていただくと分かると思うのですが、海外に行って、そこの言葉を覚えて、国家試験の勉強に励むのはなかなか難しいことだと思います。それを志して日本へ来ている外国人職員の方はとても意識が高く、受入れ当初から丁寧に支援するべきだと思っています。
外国人職員の力なくしては、我々の仕事も成り立たないので、これからも支援を適切に行って、日本人職員と外国人職員の隔てなく働いてもらえたらと思っています。

 

外国人介護職員インタビュー

〈インタビューを受けてくださった方〉

ティンさん

出身国:ミャンマー
日本語能力:N3
2019年に技能実習生として現在の事業所に入職。技能実習2号を修了した後、特定技能1号へ変更。
2023年度(第36回)介護福祉士国家試験に合格し、現在は在留資格「介護」として同事業所にて就労継続中。

Q1.なぜ、日本で介護の仕事をしようと思いましたか。

日本で介護の技術を学びたかったからです。日本の介護は丁寧だし、介護の技術が高いと聞いていました。それに日本は安全な国だと思って来日しました。

 

Q2. 日本に介護の仕事があることを知ったきっかけは何ですか。

ミャンマーでは、自分のおじいちゃんが認知症になっていたのですが、その時、私たち家族は認知症のことをよく知りませんでした。おじいちゃんはたまに怒るし、なんでそんなことをしてしまうのかなと思っていました。家族の中でいつか介護が必要になった時のことを考えて、介護を学ぼうと思いました。
近所の日本語の先生に相談すると、日本が介護の仕事をする外国人を募集していることを教えてくれ、もし興味があるなら説明会に参加してはどうかと誘われました。
日本では2000年から介護保険制度が始まったと知り、私の友達にも日本で介護の仕事をしている人がいることもあって、日本で介護の仕事をしたいと思いました。

 

Q3.仕事で心がけていることはありますか。

利用者さんの中には、自分がしたいことがあっても遠慮してなかなか言わない方もいるので、仕事の中で利用者さんの顔や表情を見て、こちらから先に言葉かけをし、どのように対応したらいいのかを確認しています。

 

Q4.後輩に仕事や日本語を教えることはありますか。

私たちがミャンマーで学んだ日本語は標準語だけでした。徳島県だと、利用者さんは阿波弁などでお話しされるので、後輩が阿波弁で分からないところなどは、標準語やミャンマー語で通訳しています。
仕事では、一つひとつの介助の前に、利用者さんに必ず声かけをするように伝えています。利用者さんのお顔や表情を見て声かけをするやり方や、移乗介助をする時に自分の腰に負担がかからないようにボディメカニクスを意識することも教えました。食事介助の時も利用者さんの姿勢の確認をすることや、利用者さんがきちんと飲み込んでいるかを確認することを教えています。

 

Q5. 介護福祉士国家試験はいつ頃から受けたいと思っていましたか。

ミャンマーにいる時に、介護福祉士国家試験に合格すると日本でずっと働けるようになるということを知りました。技能実習生として日本に来た時から、介護福祉士国家試験を取りたいと思っていました。

 

Q6. 介護福祉士国家試験の勉強はどのようにしましたか。

入職して1~2年目は、仕事の内容や、利用者さんのお名前と顔を覚えること、徳島県の阿波弁などの勉強をしていました。テキスト(右)を使って専門用語を覚えたり、メモに書いて勉強したり、分からない言葉は近くの日本人職員さんに聞いて勉強しました。仕事の内容は、周りの日本人職員さんの行動をお手本として見せていただき、勉強していました。
日本語能力試験のN2を勉強しなければ、介護福祉士の専門用語の理解が難しいと聞いていたので、3年目ではN2の勉強をしましたが、実際、N2の試験には合格できませんでした。
それでも、私は日本でずっと働きたいという気持ちで来日しましたので、どうしても日本で介護福祉士国家資格を取りたいというモチベーションで国家試験の勉強をしました。

 

Q7. 施設で働き始めて4~5年目(特定技能へ変更して1~2年目)はどのような勉強をしましたか。

入職して4年目(特定技能として1年目)は初任者研修の勉強をしました。5年目は実務者研修を受けました。その後は、登録支援機関の方に紹介してもらった日本語とミャンマー語で介護福祉士の勉強ができるウェブサイトで勉強したり、家で介護福祉士国家試験対策の動画を見たり、過去問のアプリで勉強したり、介護の専門用語を書いて覚えたりしました。

 

Q8. 介護福祉士国家資格を取得したい外国人にとって何の勉強が大切だと思いますか。

私は日本語能力試験のN3を持っていますが、介護福祉士国家試験のためには介護の専門用語も覚えないといけないので、N3だけでは足りないと思います。これから介護福祉士国家試験を受ける皆さんは、N2くらいまでは勉強してほしいと思います。あとは、国家試験の勉強のためにテキストで勉強することもありましたが、私は特に過去問を何回も勉強した方がいいと思います。

 

Q9.介護福祉士国家試験科目で理解が難しかったところはどこですか。

介護保険制度について、「社会の理解」などが私にとっては難しかったです。「こころとからだのしくみ」などはミャンマーでも勉強していたのでその辺は大丈夫だと思いましたが、法律や年号、数字を覚えるのが難しかったです。「ICF」などのカタカナや、人の名前を覚えるのも難しかったです。法律や制度はミャンマーと全然違いますので、日本独自で決まっていること、ミャンマーにはないことを覚えるのが大変でした。

 

Q10. 難しいところはどのようにして解決しましたか。

何回も読んだり書いたりして覚えました。また、休憩時間や夜勤帯にペアの日本人職員さんに聞いたり、分からない言葉は週に1回受講している介護福祉士対策講座の先生に聞いたりもしました。周りの方も「ティンさん、分からないことがあればいつでも聞いてくださいね」と言って応援してくださいました。

 

Q11. 1日にどれくらい介護福祉士国家試験の勉強をしていましたか。

対策講座の先生とは、週に1日1時間半ほど勉強していました。また、国家試験対策講座の日は早出にしてもらっていたので、夜まで時間があり、家に帰ってからも自分で勉強しました。休みの日は1日2~3時間ほど自分で勉強していました。

 

Q12. .施設からのサポートで特に感謝していることは何ですか。

困った時に相談したらいつでも対応してくれました。最近だと、私は少し前に引越しをしました。その時もマンションを調べて色々紹介してくれたのですが、施設が決めるのではなくて、私の希望を優先し、「ティンさん、どっちがいいですか?」と私の好みを聞いてくれてありがたかったです。

実務者研修では、実技や医療的ケアのために大阪まで通いました。その時は施設長が車を運転して送迎してくれました。大阪では観光もしましたし、ミャンマーのレストランにも連れて行ってもらい、ご馳走していただきました。私は日本に来て今6年目なのですが、一度も帰国していないこともありミャンマーの食べ物が懐かしく、とてもありがたかったです。

 

Q13. .外国人職員の方にとって、施設からはどのようなサポートが必要だと思いますか。

介護の仕事は日本語が話せないと利用者さんの対応ができないので、日本語のサポートが必要だと思います。日本語能力試験は聴解や読解などがあるので、私は本を見て自分で勉強するより、教室で勉強した方がいいかなと思います。

 

Q14. 今後の目標を教えてください。

勉強では、日本語能力をレベルアップしたいです。
仕事では、自分はまだまだだと思いますので、もっといい介護職員になりたいです。今、私は介護福祉士国家資格を持っていますが、5年後はケアマネジャーの試験にチャレンジしてみたいです。理由は、ケアプランを作ってみたいからです。普段、私は「どのようなケアプランを作成したら利用者さんが楽しめるかな?」と考えます。利用者さんに今よりもっと楽しんでほしいから、チャレンジしてみたいと思います。
あとは、日本にせっかく来たので国内を旅行したい気持ちもあります。北海道から沖縄まで行ってみたいです。

 

Q15. これから日本で介護の仕事をしたい人たちに伝えたいことは何ですか。

介護の仕事は優しい心を持っていないとできないと思います。
また、日本で働くには日本人と話すことが必要です。
日本語が分からなかったら、利用者さんの対応をどうすればいいのか分からないので、日本語もちゃんと覚えてほしいと思います。

(記事作成:国際厚生事業団 外国人介護人支援部)

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公益社団法人 国際厚生事業団 外国人介護人材支援部
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